「アーティストのメンタルヘルス問題」~人気音楽プロデューサーが音楽を辞めた理由~

「アーティストのメンタルヘルス問題」~人気音楽プロデューサーが音楽を辞めた理由~

今回は、ノルウェーの若き人気プロデューサー・Aden Foyer(旧活動名:Jonas Aden)が語る「僕が音楽をほぼ辞めた理由」をまとめました。

20代ですでに音楽業界で成功を収めたJonas Adenは、2021年に音楽活動を休止し、2023年に「Aden Foyer」という新しい名前でColombia Recordsと契約&再出発します。

人気絶頂だった彼が、なぜ音楽をやめることにしたのか?

今回は、この原因にもなった「音楽家のメンタルヘルスの問題」について、彼自身の体験をもとにじっくり語ります。

[ARCHIVED] Why I Almost Quit Music

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はじめに:今回お話する内容

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

この記事では、Adenが語る以下の内容についてまとめています。

・Adenが成功してから抱えたメンタルヘルスの問題
・今現在、音楽業界が抱えるメンタルヘルス問題の深刻さについて
・なぜアーティストはメンタルヘルスの問題を抱えやすいのか?
・Adenがメンタルヘルス問題を克服した3つの方法
・これからプロの音楽家になりたいと思っている方に伝えたいこと

音楽業界だけでなく、クリエイティブ業界全体に関わる内容ですので、クリエイターのみなさんやそれを支えるみなさんも、ぜひ最後までお読みください。

大手レーベルと契約し、ミュージシャンとしての夢を叶えた瞬間

今から5年前(2016年ごろ)、まだティーンエイジャーだった僕(Aden Foyer)は、ノルウェー人として初めてSpinnin’ Recordsと契約しました。

僕にとっては、まさに「夢が叶った瞬間」でした。

アーティストは病みやすい

そしてここから、僕のキャリアはどんどんステップアップしていき、世界を飛び回ってツアーをしたり、クラブでプレイすることになりました。

しかしこの経験が、「世界で成功し、夢を叶える」という夢を阻むのは、「僕自身」と「僕の音楽がいかに優れているか」であることに気づいたのです。

つまり、成功すればするほど、僕の音楽のスキルが成長すればするほど、僕の音楽人生はどんどん辛いものになってしまっていたのです。

成功すればするほど大きくなるプレッシャー

アーティストはメンタルが弱い?

僕は当時、レコードレーベル、マネジメント、パブリッシャー(出版社)、ブッキングエージェント、そして僕が絶対に失望させたくない存在であるファンがいました。

成功すればするほど、僕にはたくさんのプレッシャーがのしかかっていたのです。

毎日、1日中スタジオにこもり、十分な睡眠も取れず、一瞬も休まない状況が続いていました。

音楽活動を楽しめなくなり「迷子」になった頃

はじめは、僕が抱えるレコードレーベル、マネジメント、パブリッシャー(出版社)、ブッキングエージェント、そしてファンが好きになってくれるような音楽を作っていましたが、次第に音楽を作ること自体も楽しめなくなりました。

作った楽曲も、強制的に作らされたようなサウンドで、ひどいものだったのです。

しかし、僕はその原因がわからずにいました。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

周りの人に僕の曲を聞いてもらうと、幸いにも彼らは正直な気持ちを話してくれたのですが、「前よりもいい曲だとは思えない」という感想をもらいました。

そのような声を聞いて僕はさらに落ち込み、僕は完全に迷子状態になってしまいました。

ミュージシャンは病みやすい?

他のアーティストと自分を比較して、自分は本当にダメだと思っていました。

どうにかして新しいファンを獲得しようとSNSなども試行錯誤しながら、同時によりよい音楽を作る努力もしていました。

これは2016年頃だったのですが、少しでも状況を変えようと、ノルウェーからオランダに移住した頃でもありました。

しかしそこから約2年間は、まさに「人生のどん底」でした。

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僕がこの話をしようと思った理由

僕が今回この話をしようと思った理由は、これは「普通のこと」だからです。

その時はとても孤独を感じていましたが、実際は全く孤独ではなかったのです。

音楽家のメンタルヘルス問題

残念ながら、この業界ではメンタルヘルスについてあまり語られることはありません。

あのAviciiが直面したメンタルヘルスについて報道された後でさえも、です。

(Aviciiは世界で最も人気のあるDJ・プロデューサーの一人でしたが、数年間メンタルヘルスについて悩んでおり、2018年に自ら命を断ちました)

それどころか、Keith FlintやChester Bennington、Chris Cornellなどのスーパースターも、メンタルヘルスの問題を抱え、若くして自ら命を断つという悲劇が起こっています。

特に、若い人々がこの問題を乗り越えるのはとても大変です。

そのため、クリエイティブ業界に関わるみなさん…DJ、作曲家、プロデューサー、すべてのクリエイターのみなさんに対し、このお話をしたいと思いました。

調査で明らかになった「ミュージシャンのメンタルヘルス問題」の深刻さ

2018年に行われたMIRA (Music Industry Research Association)の研究では、約50%のミュージシャンが、うつの症状に苦しんでいるという研究結果が発表されました。

アーティストはメンタルの問題を抱えやすい?

これは、一般人を対象して調査した場合の約2倍にあたる数字です。

そして、この調査対象者の12%の人が「自殺を考えたことがある」と回答しています。

これは、一般人の約4倍にあたる数字です。

ミュージシャンは病みやすい?

また、ミュージシャンのメンタルヘルス問題解決に取り組むイギリスの独立団体「Help Musicians UK」の研究では、ミュージシャンは一般の方よりも3倍、うつ状態を感じやすいという研究結果が出ています。

さらに別の研究でも、73%の個人ミュージシャンが、不安やストレス、うつ症状に苦しんでいると発表されています。

参考:http://thewellnessstarterpack.com/wp-content/uploads/2020/01/Record_Union-The_73_Percent_Report.pdf

メンタルヘルス問題がミュージシャンに与える影響とは?

ミュージシャンの人生において、孤独を感じることはよくあります。

たとえ周りに友達やチームメンバーがいても、です。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

人前でパフォーマンスをするときや目標を達成するときに計り知れないプレッシャーが襲いかかるため、

・常に自分を疑ってしまう(自分を信じられない)
・インポスター症候群
何かを達成して周りから高く評価されても、「自分にそんな能力はない」「評価されるに値しない」と過小評価してしまうこと
・失敗に対する恐怖感
・「自分はもうピークを過ぎてしまった」と感じる
・何かを作ること自体にプレッシャーを感じる

などを感じてしまいます。

「こんなに苦しい思いしているのは、自分だけなんだ」
「周りに理解してくれる人なんていない」
「他にも同じようなことに苦しんでいる人はいないだろう」

と思ってしまいやすく、その結果、常に孤独を感じてしまいます。

メンタルヘルス問題に陥りやすいアーティストの生活

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

アーティストとしての道は終わりなく、「曲を作る、レコーディングする、リリースする、プロモーションをする、ツアーで各地を回る、SNSを更新する」という作業がいつまでも続きます。

そのため、睡眠や食事、運動などのスケジュールを日常的に取り込むことが難しく、友人との付き合いなどの個人的な人間関係もおごそかになってしまいます。

このような生活が続いていては、メンタルヘルスに支障が出てしまうのも無理はありません。

音楽フェスティバルやスタジオなど、音楽のプロが集まる現場では、ドラッグに囲まれているようなときもあります。

なぜクリエイティブ業界の人はメンタルヘルスの問題を抱えやすい?

クリエイターのメンタルヘルス問題

俗に言う「右脳タイプの人」は音楽などのクリエイティブな道を選ぶ人が多いのですが、特にこのタイプの人はメンタルヘルス問題を抱えやすいです。

この理由はたくさんあるのですが…

・仕事をすることで、自分自身を感じることができる
・ものすごい量の仕事をこなすことで、自分を信じられる
・常に失敗の連続
・先の見えない人生とキャリア
・何日、何週間、何ヶ月、何年も心と魂を仕事に注ぎ込む
・作品を世の中に出すことで、常にフィードバックをもらう

などが挙げられます。

苦しんでいる人は、あなたの隣にいるかもしれない

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

僕は音楽業界で、多くの友人が陰でメンタルヘルスに苦しんでいることを知りました。

当時の彼らは悲しみや不安でいっぱいで、僕が自殺を止めたのも一度や二度ではありません。

このように苦しんでいる人たちは、みなさんが「この人はいつも明るい人だから、大丈夫だろう」「この人は強そうだ」と思っている人たちであることもあります。

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僕がどん底から抜け出せた理由3つ

ここからは、僕がメンタルヘルスの問題をどのようにして克服できたのかをお話します。

僕がどん底から抜け出せた理由①

僕自身もこのように苦しんだことがありましたが、このどん底から脱出できたのは「自分か抱えている悩みについてオープンに話せる友人や家族がいたから」でした。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

メンタルヘルスの問題について誰かに話すことは、あまり気が乗らないかもしれません。

僕も、「こんなに重い話をするなんて、相手に負担をかけてしまっていないだろうか」と思っていました。

家族や友人に話せる人がいなければ、今ではメンタルヘルスに関するホットライン(無料相談など)がありますので、そちらの利用も検討してみてください。

しっかりトレーニングを受けた専門家が、あなたの話をしっかり受け止めてくれるはずです。

補足:日本のメンタルヘルスに関するホットライン

日本では各都道府県やNPO法人などが無料相談窓口を設けています。

相談方法は「電話」「LINE」「オンラインチャット」「メール」など、さまざまです。

相談窓口を「仕事」「健康・障がい」「家庭・ひきこもり」「お金・法律」「生活安全・犯罪被害」「人権」「災害」など、お悩みの内容に合わせて設置している団体もありますので、ぜひこちらの利用も検討してみてください。

当方・mizonote管理人はメンタルヘルスに関する専門家ではありませんが、下記にいくつかの相談窓口を記載させていただきます。

※他にも相談窓口や情報がございましたら、ぜひ当サイトの「お問い合わせフォーム」より情報をお寄せください。

・各都道府県のホットライン
「都道府県名 メンタルヘルス」「都道府県名 相談窓口」などで検索

・NPO法人のホットライン
特定非営利活動法人「自殺対策支援センターライフリンク」
特定非営利活動法人「東京メンタルヘルス・スクエア」
特定非営利活動法人「あなたのいばしょ」

・10代〜20代女性のためのLINE相談
特定非営利活動法人 BONDプロジェクト

・18歳以下の子どものためのチャット相談
チャイルドライン

僕がどん底から抜け出せた理由②

プロの音楽家になるには

僕にとってメンタルヘルス問題の解決に役立ったもう一つのことは、自分の体の健康に気をつけたことです。

・1日の中で運動の時間をしっかり作る
・毎日”普通の時間”に食事を取る
・ジャンクフードを減らし、健康的な食品を選ぶ
・音楽から離れる”休憩時間”を作る
・徹夜を減らし、睡眠時間を最適化する(最低7時間)

以前は「常にレバーをONにすればいい=ずっと音楽に打ち込んでいればいい」と思っていたのですが、これは間違いでした。

しっかり休む時間を取り、リフレッシュする時間(レバーをOFFにする時間)を作ることが、とても大切なのです。

アーティストは悩みやすい?

これを意識すると、新しいアイデアが想い浮かんだり、新たなモチベーションも湧き上がってきます。

また睡眠に関しては、少なくとも「日が出ている時間」に起きるようにしました。

以前はそれすらもできていなかったのですが、やはり日光をしっかり浴びられる時間に起きていることが大切です。

僕がどん底から抜け出せた理由③

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

先ほどの「僕がどん底から抜け出せた理由②」に関わる内容ですが、「仕事とプライベートのバランス」に気をつけたことも大きく役立ちました。

特に、友達や家族と過ごす時間はとても大切です。

以前はこの時間の大切さを理解できていなかったのですが、先ほどの「理由②」と合わせてプライベートの時間を充実させると、心身ともに健康になり、音楽にも集中でき、仕事の生産性もクリエイティビティも上がりました。

また曲をリリースしない期間を設け、音楽から一歩下がった時間を作ったことも、自分にとって大きな意味がありました。

その期間では本を読んだり、自分を省みたりする時間として過ごしました。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

周りの人と話すこと…特に、自分の気持ちに正直になって、自分の本当の気持ちを誰かに伝えるということは、とても怖いことだと思います。

しかし、これはとても大切なことで、僕らに必要なことなのです。

そのため、もし今この問題に苦しんでいて、誰にも相談できず、一人で抱え込んでいる人がいたら、ぜひ誰かに話してみてほしいです。

逆に、周りで誰かが苦しんでいる人を見かけたら、その人たちに話しかけてほしいです。

本当はどう思っているのか、本当にそう思っているのか…
自分はその人の味方であること、何でも話していい存在であること…
しっかり受け止め、その人を心配していること…

ぜひ一度、声をかけてあげてください。

これからプロの音楽家になりたいと思っている方へ

これからプロのアーティストになりたいと思っている方に伝えたいのは、プロのアーティストを目指している・プロのアーティストとして活動しているとき、打ちのめされた気持ちになることは普通だということです。

そして、失敗も当たり前です。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

成功というのは、1000回パンチを喰らっても前に進み続けた結果、生まれるものです。

今「成功した」と言われている人たちは、みんなこのような失敗や困難を経験してきた人たちです。

他人のSNSを見て落ち込まないで

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

特に、今では他人のSNSを数多く見ることができ、それが原因で他人と比較し、落ち込んでしまう人も多いでしょう。

しかし、SNSの投稿は巧みに編集され、いいところだけを切り取ったものです。

そのため、みなさんには「SNSの投稿=その人の現実すべて」だとは思わないでほしいです。

有名なアーティストが見せているのは「ほんの1%」

僕のような作曲家やプロデューサーも、SNSにアップするのは成功している一部分だけで、本当はその他に何時間も何回も失敗をしています。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題
アーティストとしてのキャリアの中で「楽しくてキラキラしている瞬間」は、全体の1%しかないと言っても過言ではありません。

どんなに有名なアーティストも、どんなに毎回ゴージャスでキラキラした投稿をしているアーティストも、それは実生活のほんの一部で、実際にダークで孤独な、不安と恐怖に満ちた生活を送っています。

全体の10%しかリリースしない音楽業界

僕は1曲につき何百時間もかけて製作していますが、実際にはそのうちの10%しかリリースしていません。

全体の10%しかリリースしない音楽業界

僕の曲に対して「あんまりよくないね」と言う人がたくさんいて、レコードレーベルが僕の曲をリジェクト(拒否)したこともたくさんあります。

でも、音楽業界で活動したいのであれば、このような拒否・不採用には慣れていかなくてはいけません。

「他人」ではなく「自分」を見よう

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

今回は「メンタルヘルス」というセンシティブな内容でしたが、勇気を持ってお話させていただきました。

よりよい生活を送るためには「困難な状況」についてしっかり学ぶ必要があると思ったからです。

自分ではなく他人ばかり見ていては、自分のキャリアが終わってしまうかもしれません。

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僕が始めたメンタルヘルス問題に関するプロジェクト

僕は自分の気持ちを話せるコミュニティーや人々を見つけることができたおかげで、自分のメンタルヘルスの問題に向き合うことができました。

この経験から、一緒に支え合うコミュニティーや空間を作ったり、それをサポートすることも大切だと実感したため、僕個人もメンタルヘルスに関わるプロジェクトを始めました。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

「YME」というノルウェーのファッションショップとNora CreativesとコラボしてTシャツ($39)を製作し、その収益をすべてノルウェー(Adenの出身地)のメンタルヘルス機関に寄付するプロジェクトです。

(現在このプロジェクトは休止中のようです)

このTシャツのデザインは、僕の楽曲「Tell Me A Lie」のMVに出てくる電話をモチーフにしたもので、「電話を手に取り、誰かに話そう」という意味を込めています。

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

この活動を通し、一人でも多くの人がメンタルヘルスに興味を持ち、そして一人でも多くの人の苦しみがなくなれば良いなと思っています。

音楽家のメンタルヘルスの問題まとめ

ミュージシャンのメンタルヘルス問題

今回は、Aden Foyer(Jonas Aden)が語る音楽家のメンタルヘルスの問題についてご紹介しました。

・成功すればするほど、プレッシャーは大きく孤独を感じやすい
・アーティストやクリエイターは、他の職業に比べてメンタルヘルスの問題を抱えやすい
・誰かに話すこと、ライフワークバランスを整えることが一番大切
・他人のSNSの投稿=「その人の生活全て」ではない
・他人ではなく、自分を見てあげよう

アーティストの精神的な健康に関するテーマでしたが、特にミュージシャンは他にも身体的な悩みやキャリアについて悩みを抱えやすい職業です。

こちらについては以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください↓

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