コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは?スピーカーやマイクで発生する問題について
- 2024.12.03
- 用語解説
今回は「コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは何か?」をまとめました。
スピーカーやマイクを使っている人なら誰しもが遭遇する可能性があるこの問題について、原因と解決策をご紹介します。
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コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは?
コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは、同じ音(波形)が2つ以上重なったときに音の聞こえ方が大きく変化する現象のことです。
コームフィルタリングが起こるとこのような音の変化が発生します↓
コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)が発生する仕組み
例えば上記画像のように2つの全く同じ波形(音)がある場合、合体させるとより強い音になります。
※1秒あたりの波の数(波長)が同じで、音量だけ大きくなります
逆に、全く同じ波形をそのまま反転させるとプラスマイナスゼロになり、音は全く聞こえなくなります。
これが位相の打ち消し(フェーズキャンセレーション)です。
ノイズキャンセリングイヤホンは、この原理を使って雑音だけを消しています。
それでは、位相が完全に一致するわけでもなく、真逆になっているわけでもなく、微妙にズレただけだとどうなるでしょうか?
実は、このような場合は「一部だけ位相がズレてしまう」という状態になります。
例えば、上記画像のように一部は位相が一致したままなので、問題ありません。
しかし、一方で他の部分では位相が少しだけズレてしまいます。
完全に無音になるわけではありませんが、音の聞こえ方が変わってしまいます。
さらに、他の部分では位相が完全に反転してしまっています。
これでは、位相の打ち消しが起こってしまうので音が消えてしまいます。
このように、2つ以上の音の波形が少しだけズレると、特定の音だけが聞こえづらくなります。
この「2つ以上の全く同じ波形が微妙にズレたとき、どの音域がどれぐらい聞こえづらくなるか」を表したのが上記のグラフです。
左側が低音域で、右側が高音域になります。
こうして見てみると、低音域は1ヶ所だけ少なくなっていますが、高音域に行くにつれてたくさんの場所が一気に少なくなっています。
つまりコームフィルタリングが起こると、特に高音域の聞こえ方に大きく影響が出てしまいます。
このグラフが髪の毛をとかす櫛(くし)=コーム(Comb)のように見えることから、「コームフィルタリング(コームフィルター)」という名前がついています。
2つの波形のズレ具合で音はどう変わる?
それでは、人間の声を使った例を見てみましょう。
上記の画像は、人間の声をグラフにしたものです。
左が低音域、右が高音域です。
それでは、この人間の声を2つ複製して、片方の声を10ms(ミリ秒)だけズラしてみると、最終的に聞こえる音はどうなるでしょうか?
先ほどとグラフの形がかなり変わりました。
特定の部分だけ音量が減っていたり、ギザギザ具合が大きくなっています。
まさに、コームフィルタリングが起こっている状態です。
それでは、片方を20msズラすとどうなるでしょうか?
グラフの形がさらに変わりました。
全く同じ音声であっても、タイミングをズラしただけで最終的に聞こえる音はこれだけ大きく変わります。
これが、コームフィルタリングが問題とされる理由です。
人間は「25ms以上のズレ」「10dB以内の音量差」で「異なる2つの音」を感じる
コームフィルタリングが発生する原因では「タイミングのズレ」と「音量の差」がキーポイントになります。
約25ms(ミリ秒)~1秒の差がある
音量差が10dB以内のとき
※これらはあくまでも目安で、音の種類や音を聞く環境によって数字は異なります
人間は2つ以上の音波を耳でキャッチしたとき、そのズレの大きさによって「1つの音」に聞こえるか「複数の音」に聞こえるかが変わります。
25ms以上のズレでは「異なる複数の音」として感じやすくなります
10dB以上の音量差では「異なる複数の音」として感じやすくなります
そのため、あえて発音を遅らせる「ディレイ」として感じさせたいのであれば25ms以上タイミングをズラして音を出すのが効果的だと言えます。
また、左右で別々の音を鳴らしていると感じさせたいときは、それぞれの音量差を10dB以上に広げるのが効果的でしょう。
逆に1つの音に聞かせたいときは、鳴らしている音の音波を25ms以内のズレに収め、音量差を10dB以内にするのがよいでしょう。
コームフィルタリングが発生する3つの原因
コームフィルタリングが発生する原因は、主に3つあります。
発生しやすい場面1.音が壁に反射するとき
例えば上記画像のように楽器から出た音をマイクで録音するとき、マイクは2つの音波を拾います。
(マイクは人間の耳に置き換えてもOK)
1つは楽器から直接マイクに届いた音、もう一つは壁に反射した音です。
しかし、楽器から直接届いた音と壁に反射した音がピッタリ同時に届くとは限りません。
壁に反射した音の方が移動距離が長いので、ほんの少しだけ遅くマイクに届きます。
すると、全く同じ音(もしくは限りなく似ている音)が少しだけズレてマイクに届いてしまうので、両者の波形が混ざった結果、コームフィルタリングが発生してしまうことがあります。
もちろん、横の壁だけではなく床や机、天井などに反射しても同じ現象が起こり得ます。
例えば壁の距離を変えると、聞こえ方はこのように変わります↓(2:57~3:07)
発生しやすい場面2.スピーカーを2つ以上使うとき
コームフィルタリングが発生しやすい場面の2つ目は「スピーカーを2つ以上使うとき」です。
DTMやホームシアターで音を聞くとき、多くの人はスピーカーを2つ使うでしょう。
このとき、たとえ左右のスピーカーから同じ音を出していても、それぞれのスピーカーと自分(マイク)の距離が異なっていると、音が届くまでに時差が生じます。
例えば左側のスピーカーに近い場所で音を聞くと、左のスピーカーから出た音の方が早く耳に届きます。
すると、大きな差(1秒以上のズレ)はなくても多少の差は生じるため、コームフィルタリングが発生することがあります。
例えばマイクの場所(音を聞く場所)を移動すると、聞こえる音がこのように変化します↓(3:22~3:30)
そのため、スピーカーを2つ以上使うときは自分(マイク)と各スピーカーの距離を可能な限り均一にすることが理想とされます。
(サラウンドシステムなど、複数のスピーカーをいくつも使う場合は専門の業者にセッティングのアドバイスをもらうのがよいでしょう)
発生しやすい場面3.マイクを2つ以上使うとき
コームフィルタリングが発生しやすい場面の3つ目は「マイクを2つ以上使うとき」です。
音源(音を出すもの)が1つであっても、音をキャッチする媒体が2つ以上あり、最終的にキャッチした音を1つにまとめる場合は、コームフィルタリングが発生する可能性があります。
例えば上記画像のようにマイクを2つ使う場合、マイクと楽器の距離がそれぞれ異なっていると、両者のタイミングが微妙にズレた状態で録音することになります。
すると、それぞれのマイクで録音した音を混ぜたとき、コームフィルターが発生する可能性があります。
例えば片方のマイクの距離を動かすと、聞こえる音はこのように変わります↓(3:40~3:50)
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コームフィルタリングを解決する方法
以上の原因から、コームフィルタリングを解決する方法はこちらの3つが挙げられます。
・マイクを2つ以上使うときは、音源(楽器やスピーカー等)との距離に差がないように設置する
・壁に吸音材を設置するなどして、音の反射を減らす
吸音材の仕組みや設置方法についてはこちらで解説していますので、ぜひ参考にしてください↓
コームフィルタリングは位相反転では解決しない
「ちょっとのズレでコームフィルタリングが発生するなら、位相を反転すれば解決するのではないか?」という考えが過ぎるかもしれませんが、残念ながら100%の解決は望めません。
実際に、コームフィルタリングが発生しているときの音に対して、Phaseスイッチ(位相反転スイッチ)を使ってみてみましょう。
青色:位相を反転させた音
上記画像を見ると、位相を反転させただけではコームフィルタリングが発生している周波数帯域が変わっただけになっていることがわかります。
※青色のグラフもオレンジ色のグラフも、櫛のようにギザギザしています
位相反転はあくまでも位相の打ち消し問題を解決するものであり、コームフィルタリングの問題を100%解決するものではないと言えます。
※コームフィルタリングが発生する周波数を移動させることはできるので、特定の音域に対しては効果があると感じられることはあります
コームフィルタリングをフィルターエフェクトとして活用する
例えば大人気シンセサイザー「Serum」では、このコームフィルターを活用して音作りをすることができます。
プラグイン内で使えるフィルターに「Comb」という種類があり、このコームフィルターの原理を使って音にエフェクトを加えたような効果を出します。
ダンスミュージックなどでは「ギーッ」とした金属音のような音や人工的な音が魅力につながりやすいため、このようなシンセサイザーの中にはわざとコームフィルターを使うことができる製品もあります。
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コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは何か?まとめ
以上で「コームフィルタリング(櫛型フィルタリング)とは何か?」の解説は終了です。
・同じ波形が2つ以上重なったとき、少しだけズレると特的の音域が聞こえにくくなる現象
・25ミリ秒~1秒以内のズレ+10dB以下の音量差で発生しやすい
・音が壁に反射するとき
・2つ以上のマイクを使っているとき
・2つ以上のスピーカーを使っているとき
当サイトでは他にも音の聞こえ方やさまざまな現象についてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓
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