【音楽ジャンル】バーバーショップ音楽(Barbershop Music)とは?
- 2020.10.09
- 2024.07.23
- 音楽ジャンル解説
- 音楽ジャンル解説, バーバーショップ音楽
今回はこのような疑問にお答えする内容です。
「バーバーショップ」は「床屋」という意味ですが、一体どんな音楽か、ご存じない方がほとんどでしょう。
そのため、こちらを読めば作曲の引き出しが増えますので、ぜひ最後までご覧ください!
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バーバーショップ音楽とは?
バーバーショップ音楽は、1930年代から現在までにあたる「バーバーショップリバイバル時代」に確立した、アカペラのクローズハーモニー(密集和声)のスタイルで、四声がそれぞれホモフォニー的に進行する無伴奏スタイルの音楽を指します。
バーバーショップ音楽の名前の由来
英語における「barber’s music」は、17世紀にSamuel Pepysによって「アマチュアのインストゥルメンタル音楽」として使われていました。
The Encyclopædia Britannicahによると、19世紀に誕生したこのカルテットスタイルの起源は「あいまい」としており、おそらく英語における「barber’s shop」の時代に遡るか、店員が代々ミュージシャンである床屋・理髪店において、男性たちが社会的・音楽的な活動のために集まり、コミュニティーセンターとして動いていたところから来ているとしています。
のちに、ミンストレルショー(黒人に扮した白人が、黒人の歌や踊りをパフォーマンスする)のシンガーたちがバーバーショップ音楽のスタイルを採用し、初期のレコード業界で録音・販売されるようになります。
前述のJames Weldon Johnsonは「1920年代には、バーバーショップはすでに人種の壁を超えて歌われていた」と言及しています。
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バーバーショップ音楽の衣装
現代のバーバーショップ音楽のカルテットの多くは、カンカン帽と縦縞のベストなど、昔の派手なヴォードヴィル(寄席)の衣装を着ています。
バーバーショップ音楽音楽的な特徴
ここからは、バーバーショップ音楽で使われるコード・ハーモニーなど、音楽的な特徴について解説します。
四声によるハーモニー
バーバーショップ音楽では、四声がそれぞれの役割を持っているのが特徴です。
テノール:メロディーに対してのハモリ
バス:ハーモニーで最も低い音を歌う
バリトン:コードを完成させ、基本的にリードの下で歌う
タグ(曲の最後にある、ドラマティックな部分)やコーダ部分で声部が不自然になったり、装飾音と付けたりする時を除き、メロディーがバリトンやテノールに歌われることは少ないです。
「スネーク」「スワイプ」
バーバーショップ音楽におけるハーモニーでの特徴の一つは、「スネーク」「スワイプ」という手法が使われることです。
これは1つ以上の非和声音を使うことで、コードが変化させる手法です。
(音を一度発音した後、音を伸ばしながら音程を変えたりします)
時折、四声以下の声部で歌われることもあります。
スネーク・スワイプの例(補足)
wikiには書いてありませんが、こちらの記事に掲載されているスネーク・スワイプの例をいくつかご紹介します。
https://www.helpingyouharmonise.com/swipes
「ホールドパターン」
画像:https://www.helpingyouharmonise.com/swipes
最後の小節で声部が動いているが、最初と最後のコードは同じ。
一旦コードが変わっているように聞こえるが、実際には元のコードに戻っているだけ。
「ディレイ・アライバルパターン」
画像:https://www.helpingyouharmonise.com/swipes
最後のコードに行く前にテンションを入れることで、よりその後の解決感が増す。
「予想パターン」
画像:https://www.helpingyouharmonise.com/swipes
メロディーが最後の小節に行った時、その後ハーモニーを動かすことで、次に行く予感を出す。
バーバーショップ音楽の構成
バーバーショップ音楽は通常、四声それぞれを担当する4人のシンガーで構成さる「バーバーショップカルテット」か、通常の合唱団に近い携帯の「バーバーショップコーラス」によって演奏されます。
BHS(Barbershop Harmony Society)によると、「バーバーショップ音楽にはわかりやすい歌詞と歌いやすいメロディーがあり、調性が明確で、メジャー・マイナーコード、五度圏を中心に解決する「バーバーショップセブンスコード」を伴っているのが特徴的。バラードなどよりテンポがゆったりとした楽曲は、連続的なビートを避け、音は音節を保持(もしくは高速化)することが多い」とされています。
ベース以外の声部はクラシック音楽の声部と一致はしていませんが、テノールのレンジやテッシトゥーラはクラシック音楽の「カウンターテノール」と似ています。
テッシトゥーラ
「音高のまとまり」のこと。
「レンジ」は単純に最低音から最高音までの距離を表しますが、テッシトゥーラは「その声部(その人の声)にとってベストに出せる音域・範囲」という意味合いがあります。
たとえばいくらメロディーのレンジが広くても、ソプラノ歌手にとって、低い音域をずっと歌い続けるのは厳しいです。
そのため、レンジは広いかもしれませんが、テッシトゥーラはレンジよりも狭まると言えます(参考動画)。
画像:https://www.youtube.com/watch?v=KJtUlLo-qWAより
バリトンはヘルデンテノール(力強い声を持つテノール歌手)のレンジ(声域)とリリックバリトンに似ており、リードは基本的にクラシック音楽におけるテノールと同じです。
ハイバリトンに似たテッシトゥーラの歌手もいます。
バーバーショップ音楽は男性・女性グループともに歌われ、この音楽のスタイルの要素の一つであり、また各パート名は男女ともに同じです。
リンギングコード(Ringing Chord)
バーバーショップ音楽の特徴として「リンギングコード(Ringing Chord)」が挙げられます。
これは四声の倍音が互いに補強し合うことで、その音を誰も歌っていないのに、ある音が強く強調され、リスナーにはその別の音が歌われているように聞こえる効果のことです。
たとえばこちらの動画の0:09~0:17の間は、全員がA(ラ)の音を弾いていますが、E(ミ)の音も同時に聞こえてきます。
この効果は、人間の耳に聞こえる範囲にある5thやオクターブの家系にある倍音が強く補強し合ったり、極端なビブラートなどがなく、完璧なピッチで演奏された場合に起きます。
(例えばフルートやピッコロはもともと音程が高いので、これらの音の倍音は人間の耳には聞こえません。しかしコントラバスやチューバなどの低音楽器は元の音程が低いので、これらの楽器の方が倍音が聞こえやすくなります。)
バーバーショップ音楽でのリンギングコードの重要性
ボーカルにおいてこれらの特徴はとても重要ですが、バーバーショップ音楽においては、他の音楽的な価値を覆すほどの重要要素になっています。
バーバーショップ音楽はアカペラで演奏されますが、他のジャンルでは固定ピッチの楽器(平均律で調律されている楽器)が使われており、これだと純正律でのコードを完璧に演奏することが不可能になります。
平均律:1オクターブをきっちり12等分した音律で、半音=100セント。ピアノの調律などに使われる。
純正律:和音の響きの美しさを重視した音律で、平均律のように半音=100とは限らない。オーケストラ、吹奏楽、合唱などに使われる。
リンギングコードは科学的にも証明されている
物理学的・清津物理学的に、この効果はよく解明されています。
この効果は、ハーモニーにおける高音部、耳の中の非線形の形状から生じる和と差の周波数が特定の周波数で互いに補強し、ブレンドされた音において別々に目立つように強化されたときに発生します。
特定のコードのとき、全ての声部が同等に豊かである(朗々としている)とき、純正律であり、バランスが取れているときにしか起こりません。
そのため、現代の鍵盤楽器などで演奏されたコードでは、この効果を聞くことはできません。
基本的には平均律で、完璧にチューニングされているわけではないからです。
ちなみにGage Averillによると、バーバーショップ音楽のリバイバル時期(少なくとも1938年以降)における経験豊富なバーバーショップ音楽のシンガーたちは、共通倍音の増加を最大化させるために、自分でドミナントセブンスやトニッックコードを歌う時のピッチを調整していたといいます。
倍音が生み出す美しいサウンド
大切なのは「倍音」そのものではなく、倍音の存在によって、その効果が最も顕著になる、その独特な音自体にあります。
四声の波形がシンクロして「1つの音」になることで、同時に「第五の音」を聞くことができます。
このリンギングコードは、平均律で調整された鍵盤楽器などで鳴らされた音とは、「質的に」違っているのも大きな特徴です。
リンギングトーンを強調するために
リバイバル時代のアーティスト、いわゆる「リバイバリスト」の音楽スタイルでは、前述のリンギングコードを出すことを理想としたものが多いです。
パフォーマンスはアカペラで、これにより平均律でリンギングトーンが出せなくなることを阻止しています。
これは、他の3声以外の音を聞いてしまうと、演奏者が必要な精度でチューニングをすることができなくなってしまうためです。
バーバーショップ音楽のコード進行の特徴
バーバーショップ音楽のアレンジでは、サスペンデッドコードやディミニッシュコードなど、ラグタイムやジャズなどの他ジャンルで使われていたハーモニーを使わず、「リンギング」を支持するようなコードやコード進行を使っているのが特徴です。
ドミナントセブンス系のコードは、バーバーショップ音楽にとっては非常に重要な要素で「バーバーショップセブンス」とも呼ばれています。
BHS(Barbershop Harmony Society)のアレンジャーたちは、「バーバーショップサウンド」を作るため、楽曲のうち35~60%はドミナントセブンスコードを使うべきだとしています。
(「楽曲の尺のうちの35~60%」というよりも、「楽曲で使われるコード進行のうちの35~60%」という意味)
「マイナーコード」?
歴史的に、バーバーショッパーたちは、音楽のトレーニングを受けていた人たちを混乱させる目的で「マイナーコード」という言葉を使っていたと言われています。
Averillによると「これはメジャートライアドというよりも”コードタイプの省略形”として使われている言葉」「ドミナントセブンス系のコードや、ディミニッシュコードのことを指している言葉」としています。
これは、19世紀終わりごろに使われていたといいます。
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バーバーショップ音楽の歴史
現代のバーバーショップ音楽は1940年代のリバイバル時期に復活したことから知られるようになりましたが、どの人種・地域・性別から誕生したのか、その起源については諸説あります。
歴史的な記録や報道での有力な説としては、若いアフリカ系アメリカ人の男性の間で、「コードを演奏する」ためにカルテットとして歌われていたのが起源とされています。
1882年には、雑誌「New York Age」で「劇場やコンサートホールなどから黒人が排除される中で、地元発の娯楽としてバーバーショップ音楽が発展していった」ということが記されています。
ジャズミュージシャンのLouis Armstrongは「少年時代にNew Orleansの街角でハーモニーを作っていた」と話しており。NAACP(全米黒人地位向上協会)のJames Weldon Johnsonは「バーバーショップのハーモニーを歌って育った」と話しています。
英語における「barber’s music」は、17世紀にSamuel Pepysによって「アマチュアのインストゥルメンタル音楽」として使われていました。
初期バーバーショップ音楽の有名な楽曲
初期のスタンダードとしては「Shine On, Harvest Moon」「Hello, Ma Baby」「Sweet Adeline」などが挙げられます。
バーバーショップ音楽の全盛期(1900年~1919年)
バーバーショップ音楽は1900年~1919年の間に非常に人気となりました。
この頃の有名なアーティストとしては、Haydn Quartet、the American Quartet、the Peerless Quartetが挙げられます。
作曲家・ピアニストのScott Joplinは、、彼の1911年のオペラ作品「Treemonisha」でバーバーショップのカルテットに参加しています。
このジャンルは1920年代に徐々に人気を失いますが、バーバーショップスタイルのハーモニーは、黒人ゴスペル・白人ゴスペルのアカペラスタイルのなごりとしてはっきり残っています。
女性のバーバーショップ音楽グループ
伝統的に、「バーバーショップ」という言葉は、カルテットでもコーラスでも、男声・女声両方をに使われる言葉です。
Sweet Adelines InternationalやHarmony, Incorporatedの2組は、北アメリカや世界的にも有名なバーバーショップ音楽の団体です。
他のグループ・組織としては、イギリスのthe Ladies Association of Barbershop Singers (LABBS)、スペインのthe Spanish Association of Barbershop Singers (SABS)、アイルランドのthe Irish Association of Barbershop Singers (IABS) が有名です。
以上で解説は終了です。
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