【音楽理論】イオニアンモード(アイオニアンモード)を使ったゲーム音楽を解説!【映像音楽】
今回は、8-bit Music Theoryが解説する「イオニアンモード(アイオニアンモード)の使い方」をまとめました。
※「Ionian Mode」は「イオニアンモード」もしくは「アイオニアンモード」と呼ばれますが、この記事では「イオニアンモード」と表記します
ポケットモンスターシリーズやどうぶつの森シリーズ、「MOTHER」シリーズ、ファイナルファンタジーシリーズをはじめ、ゲーム音楽にはイオニアンモードを使った楽曲が数多くあります。
「そもそもイオニアンモードって何?」「モードを使った作曲にチャレンジしたい!」という方には必見の内容です!
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はじめに:初心者向けのモードに関する解説記事
モードにはじめて触れる方、おさらいしておきたい方は、以下の記事を先にお読み頂くと、当記事をよりスムーズにご理解いただけます。
【DTM・作曲】耳で「モード音楽かどうか」を聞き分ける方法【音楽理論】
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当サイトでは初心者向けのモードの記事を多数公開していますので、ぜひ諦めずに読んでみてください!
イオニアンモードとは?(Ionian Mode・アイオニアンモード)
イオニアンモードとは「モード」の一種で、メジャースケールと全く同じ音程が使われるスケールです。
例えばCイオニアンスケールは、Cメジャースケールと全く同じ「C,D,E,F,G,A,B」の7音が使われます。
非常に多くの楽曲で使われているモード(スケール)ですが、その曲によって使われているテクニックはそれぞれ違います。
この「テクニック」の違いが、同じイオニアンスケールでも全く違ったサウンドに仕上げているのです。
イオニアンスケールの特徴音は何か?
これまでの「ゲーム音楽を使ったモード解説シリーズ」では、各モードを決定づける「特徴音」をご紹介しました。
特徴音とは、「その音を使うことでそのモードらしさが出せる重要な音」です。
イオニアンモードでは、4thと7thの音が特徴音だと言えます。
Cイオニアンスケールの場合は、FとBの音が特徴音です。
「イオニアンモードはつまらない」なんてことはありません
イオニアンモードの「メジャースケールと全く同じ音を使う」という特徴は、もしかすると「つまらないモード」と思わせてしまう要因の一つかもしれません。
加えて、曲中での転調もなし、セカンダリードミナントや借用コードもなく、ちょっと変わったコード進行も使用しない…となると、「イオニアンモードを使う意味ってあるの?」「使う場面が思い浮かばない…」となってしまうでしょう。
しかしこの記事では、イオニアンモードの特徴と、「一般的なメジャースケール」ではなく「モード」として効果的に使う方法を、ゲーム音楽を例にじっくり解説していきます。
イオニアンモードを使うとどんな音楽が作れるのか?
イオニアンモードを使うと、以下のような音楽を作ることができます。
・田舎のような趣きのある素朴さを持つ音楽
・楽しい冒険がずっと続いていくような期待感のある音楽
・無敵&最強の状態を演出する音楽
それではここからは、上記の具体的な例をゲーム音楽をもとに解説していきます。
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イオニアンモードを使ったゲーム音楽の例:あつまれ どうぶつの森「博物館のテーマ」
イオニアンスケールを使ったゲーム音楽の良い例として、まず挙げられるのが「あつまれ どうぶつの森」の「博物館のテーマ」です。
このゲームでは展示物によって楽曲のアレンジが少し変わりますが、ベースとなるフレーズは非常にシンプルで、6度移動を繰り返すような構成になっています。
スケール音を使って「3→1」「4→2」「5→3」のように移動するフレーズが続きます。
それでは、楽譜を見ながら聞いてみましょう。
「スケール音にある音しか使わない」「6度移動しかしない」というシンプルなフレーズですが、非常にリラックスでき、一日中ずっと博物館の展示物を見ていられるような、素晴らしい楽曲です。
この曲の大きな特徴は「ハーモニーがない」
先ほどお聞きいただいた通り、この曲には機能和声(ファンクショナルハーモニー)が使われていません。
単音を「ポーンポーン」と鳴らすような音楽です。
強いて言うなら「I – ii – I – ii」もしくは「I – ii – iii – ii」と解釈できますが、このように考えても複雑なテンション音もコード進行もなく、ゆるやかに&シンプルに進行していくように聞こえます。
例えば上の画像のように、無限に広がる宇宙をダイナミックに飛んでいくようなシーンであれば、強烈なドミナントコードやダイナミックなコード進行の方が合うでしょう。
しかしこちらの画像のように「静かな博物館で展示物をじっくり見る」というシーンであれば、わかりやすいハーモニーも強烈なコード進行もない、まさにこの「博物館のテーマ」のようにゆったりとした音楽がピッタリなのではないでしょうか?
イオニアンモードを使ったゲーム音楽の例:ファイナルファンタジーVI「リルムのテーマ」
次にご紹介するのは、「ファイナルファンタジーVI」の「リルムのテーマ」です。
※リルムは「10歳でお絵かきが大好きな女の子」で、上記画像のうち金髪&ピンクの帽子をかぶった女の子です
この曲では、イオニアンモードに加えて「ベースペダルと4thコードのコンビネーション」が使われているのが特徴的です。
ベースペダルと4thコードのコンビネーション
ここで、リディアンモードの回でも解説した「ベースペダル」のテクニックをもう一度振り返ってみましょう。
ベースペダルは「低い音である音をずっと伸ばす」という特徴があり、ここに#4のコードを乗せるとかっこいいリディアンモードの進行を作ることができます↓
リディアンモードは#4が特徴音だったため、このようなテクニックを使いました。
それでは、これをイオニアンモードで行うとどうなるでしょうか?
#4ではなく♮4にしてみると、このようになります↓
「リルムのテーマ」でもこのテクニックが使われており、トニックのベース(F#)がずっと下で鳴っています。
そしてストリングスはF#メジャースケールに沿って一段ずつ下がるようなフレーズになっており、各ハーモニーは6度違いの音で構成されています。
ストリングスがメジャー7th(F#とF)とナチュラル4th(F#とB)の組み合わせを使うことにより、とてもゆったりとした雰囲気を演出しています。
それでは、楽譜を見ながら聞いてみましょう。
「あつまれ どうぶつの森」の「博物館のテーマ」と異なる点とは?
「ゆっくり・じっくり・リラックスできる」という点では、前述の「あつまれ どうぶつの森」の「博物館のテーマ」と共通しています。
しかし、こちらのリルムのテーマでは「博物館のテーマ」では使われていなかったテクニックがいくつか使われています。
まずは、バンジョーのアルペジオと日本の伝統楽器「篳篥(ひちりき)」が生み出す「素朴さ」です。
上記の楽譜のうち、上段ではフルートと篳篥、そしてオーボエが演奏しています。
その少し下にある16分音符で細かく動いているのがバンジョーのフレーズです。
そして、この楽曲はIコード(F#)しか使われていません。
ダイナミックでわかりやすいコード進行がないので、非常にゆったりとした印象があります。
これらの楽器やフレーズ、リズム、コードに加え、イオニアンモードを使うことにより「田舎らしい、趣のある素朴さ」が演出できます。
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イオニアンモードを使ったゲーム音楽の例:MOTHER2 ギーグの逆襲「冒険をはじめよう」
次にご紹介するのは、「MOTHER2 ギーグの逆襲」の「冒険をはじめよう」です。
前述の2曲とは違い、アップビートなリズムが特徴的ですが、美しく壮大な自然を思い起こさせる雰囲気は共通しています。
「大自然の中でリラックスしている」というよりも「大自然を楽しく冒険していく」という印象に近いでしょう。
「解決感」のコントロール
この曲ではメロディー(楽譜上段)がCメジャーコードの音(C,E,G)を主に使用し続けていますが、ベースはCmaj7とDm7を交互に演奏しています。
ディグリーネームでは「I – ii」を繰り返していることになりますが、「I – ii – I – ii」という進行は、解決感が非常に薄くなりやすい進行です。
加えて、この曲ではiiコードのときにb7の音やルート音がベースに入っているため、ますますコードの解決感が薄くなっています。
基本のベースラインも、iiコード(Dm)のときに次のコード(C)のルート音を一番最後に入れています。
フライングのような形で次のコードのルート音を出しているため、「突然、一気にコードが変わる」というダイナミックさも巧みに減らしています。
解決感を薄れさせることで、逆に「冒険が楽しくずっと続いていく」という印象を与えることができます。
「V – I 進行」「IV – I 進行」「順次進行」の解決感を聴き比べてみよう
先ほどは「I – ii 進行」をご紹介しましたが、よく使われるコード進行として「V – I 進行」と「IV – I 進行」、そして「順次進行」があります。
一般的に、「V – I 進行」は非常に強い解決感があり、スッキリとしたわかりやすい終始感があります。
一方、「IV – I 進行」はこれよりも解決感が薄いです。
順次進行も、徐々に収まっていくため弱い解決感があります。
これら3種類を実際に弾いてみると、このようになります↓
このように、さまざまな解決感を持つコード進行を見てみると「そのシーンに合ったコード進行」を考えやすくなります。
イオニアンモードを使ったゲーム音楽の例:スーパーマリオブラザーズ「無敵BGM(スターのテーマ)」
次にご紹介するのは、「スーパーマリオブラザーズ」の「無敵BGM(スターのテーマ)」です。
自由さが垣間見えるイオニアンモードと非常に速いシンコペーションのリズムを使うことで、まさに「無敵」な状態を演出しています。
コードは、先ほどの「冒険をはじめよう」と同じ「I – ii」の繰り返しです。
あまり解決感がないコード進行ですが、これが逆に「無敵である安心感」を演出しています。
ここまでご紹介した例では「おだやか&リラックス」を連想させる音楽でしたが、この「無敵BGM」は「無敵であることによってプレイヤーが安心できる」という意味で「リラックス」できると言えるでしょう。
同じイオニアンモードを使っていても、使い方によってここまで与える印象にバリエーションを加えることができます。
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イオニアンモードを使ったゲーム音楽の例:ポケットモンスター 赤・緑・青「マサラタウンのテーマ」
次にご紹介するのは、「初代ポケットモンスター(赤・緑・青)」の「マサラタウンのテーマ」です。
この曲はイオニアンモードをベースに、「コード進行に頼らず、自然なボイスリーディングだけを使ってハーモニーに動きをつけている」という巧みなテクニックが使用されています。
はじめの8小節間は、独立した3つのメロディーラインから成る対位法(Counterpoint)が使われています。
1つ1つのメロディーラインだけ聞いても十分美しいメロディーですが、それらを組み合わせることにより、さらに美しいボイスリーディングを生み出しています。
ベースの動きに注目してみよう
ベースラインに注目すると、トニック(G)を中心にその周辺を動いていることがわかります。
それでは、ベースラインだけ聞いてみましょう↓
中盤はコードの3rdの音を中心に動くようになりますが、Gメジャーコードのアルペジオと4thの音を用いながら、「4→3」の自然なボイスリーディングを使うことにより、3rdの音に戻ったときに程よい解決感を生み出しています。
コードがなくてもメロディーだけで解決感を出せる
メロディーラインに注目してみると、Gメジャースケールに沿って上り下りしている箇所が多いことがわかります。
特に「5→1」とストレートに移動している箇所は、イオニアンモードのスケール感をダイレクトに与え、解決感も生まれます。
わかりやすいハーモニーパート(コードパート)を入れなくても、ボイスリーディングだけで解決感を生み出すことができるのです。
それでは、これを踏まえて楽曲を聞いてみましょう↓
「ポケットモンスター 赤・緑」において、マサラタウンは激しい戦いもなく、派手で大きなビルもなく、「おだやかで、辛いときに帰ってきたくなる場所」です。
そんな場所を演出する音楽として、イオニアンモードとこれらのテクニックを使っているのは、非常に巧みな例と言えます。
トライトーンを使ってバリエーションを増やそう
最後に、トライトーンを使ってモード音楽にバリエーションを増やす例をご紹介します。
「トライトーン」とは、いわゆる「不協和音」を作る音の組み合わせです。
具体的には増4度(半音6つ)の関係にある音、もしくは半音違いの関係にある音のことで、これらは同時に鳴らすと非常に不安定な印象を与えます。
例えばCイオニアンスケールで使われる7音のうち、4thのFと7thのBの音はトライトーンの関係にあります。
そしてこれらの音は、はじめにお話した通り「イオニアンスケールの特徴音」です。
この「モードの特徴音は、必ずトライトーンを作るペアになっている」という法則は、別のモードにも適用できます。
※特徴音が1つしかない場合は、ルート音など、特徴音以外でそのモードにおいて重要な音とトライトーンの関係になります
特徴音とトライトーンを上手に使う
トライトーンは「不協和音」「不安定」などネガティブな印象を持たれることが多いのですが、上手に使うと美しいボイスリーディングやコード進行を作ることができます。
例えばCイオニアンスケールの場合、BはCへ(7→1)、FはEへ(4→3)移動することにより、スムーズでしっかり解決感のあるコード進行になります。
これを上手に利用した例が、前述の「マサラタウンのテーマ」です。
コードを使わずに、ボイスリーディングだけでこのような解決感を生み出しています。
このテクニックは他のモードでも利用できますので、イオニアンモードに限らず、ぜひ他のモードもマスターしてください!
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