【音楽理論】ドリアンモードを使ったゲーム音楽を解説!前編【映像音楽】

今回は、8-bit Music Theoryが解説する「ドリアンモードの使い方」をまとめました。
この記事では前編として「ドリアンモードの基礎」と「ドリアンモードを使ったシリアス&ダークなゲーム音楽の例」をご紹介します。
後編:ドリアンモードを使った明るい&ファンキーなゲーム音楽の例
ゼルダの伝説シリーズや星のカービィシリーズ、ファイナルファンタジーシリーズをはじめ、ゲーム音楽にはドリアンモードを使った楽曲が数多くあります。
「そもそもドリアンモードって何?」「モードを使った作曲にチャレンジしたい!」という方には必見の内容です!
スポンサードサーチ
- 1. はじめに:初心者向けのモードに関する解説記事
- 2. ドリアンモードとは?(Dorian Mode)
- 3. ドリアンモードのゲーム音楽:ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス「傷だらけのミドナ」
- 4. ドリアンモードのゲーム音楽:Hollow Knight「Dirtmouth」
- 5. ドリアンモードのゲーム音楽:ファイナルファンタジーVI「カイエンのテーマ」
- 6. ドリアンモードのゲーム音楽:クロノトリガー「バトルテーマ(戦い)」
- 7. ドリアンモードのゲーム音楽:オクトパストラベラー「剣士オルベリクのテーマ」
- 8. ドリアンモードのゲーム音楽:Halo 3「Never Forget」
- 9. ドリアンモードのゲーム音楽:ゼルダの伝説 神々のトライフォース「闇の世界」
- 10. ドリアンモードのゲーム音楽:Halo 3「Halo Theme」
はじめに:初心者向けのモードに関する解説記事
モードにはじめて触れる方、おさらいしておきたい方は、以下の記事を先にお読み頂くと、当記事をよりスムーズにご理解いただけます。
【DTM・作曲】耳で「モード音楽かどうか」を聞き分ける方法【音楽理論】
「調性音楽」と「モード」って何? -TonalとModal-【モード編】
当サイトでは「モードの記事を1つだけ読んでもあまり理解できなかったけど、いくつか読んでみたらピンときた!」というお声も頂いています。
初心者向けのモードの記事は多数公開していますので、ぜひ諦めずに読んでみてください!
ドリアンモードとは?(Dorian Mode)
ドリアンスケールは、通常のマイナースケールのうち6thの音を半音上げたスケールです。
例えばCナチュラルマイナースケールは「C,D,Eb,F,G,Ab,Bb」の7音ですが、Cドリアンスケールは「C,D,Eb,F,G,A,Bb」の7音になります。
モードの中でも比較的使いやすく、多くの楽曲で使われており、「ダークでミステリアス」な楽曲から「明るく楽しくハッピー」な楽曲、まで、幅広く作ることができます。
まさに「万能」と言えるモードです。
もし6thの音が半音上がっていなかったら、どうなる?
ドリアンモードは「通常のマイナースケールのうち6thの音を半音上げる」という点が特徴です。
それでは、もし6thの音を半音上げなかったら、どんなサウンドになるでしょうか?
例えば、Dmコードにb6thの音を加えたこちらのコード。
実際に聞いてみると、b6thの音(Bb)にかなり違和感があるように聞こえます↓
そのため「どうしてもb6thの音を5thに変えたい」など、強制的に、かつ早く解決感が欲しい気持ちになってしまいます。
(あえてこのような手法を使う場面もありますが、b6thの音が強烈すぎると感じることが多いでしょう)
それでは、ドリアンモードにして「b6th」を「6th」に変えてみましょう。
下から「D,F,A,B」の4音で、BbがBに半音上がります。
b6thの時よりも「ものすごく気持ち悪い」「早く解決したい!」という焦燥感や強い違和感は軽減されます。
加えて5thの音に移動したときの解決感はしっかり残り、どこかにミステリアスさや苦しさなど、ダークな雰囲気も漂うサウンドになります↓
それではここからは、ドリアンモードを使ったさまざまなゲーム音楽を解説していきます。
スポンサードサーチ
ドリアンモードのゲーム音楽:ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス「傷だらけのミドナ」
はじめにご紹介するのは、「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」より「傷だらけのミドナ」です。
はじめの4小節間は、Dm9コードの美しいアルペジオから始まります。
次にメロディーパートがはじまり、フレーズの最後はナチュラル6thの音(B)で終わります。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
この曲は、主人公が狼に変身し、弱ってしまったパートナー・ミドナを連れてハイラル平原という壮大な地域を駆け巡っているシーンで使われています。
「ミドナ早く助けたい」という焦燥感と「なかなか上手くいかない」「難しい」というシリアスさを演出するには、まさにドリアンモードを使ったこのような楽曲がピッタリです。
ドリアンモードのゲーム音楽:Hollow Knight「Dirtmouth」
次にご紹介するのは、「Hollow Knight」より「Dirtmouth」です。
先ほどの「傷だらけのミドナ」と同様のテクニックと雰囲気を持った楽曲です。
はじめはソロピアノでEmコード(トニック)のコードを使ったアルペジオから始まり、最後はC#(6th)で終わります。
最後にメロディーがC#(6th)で終わることにより、暗闇を永遠に彷徨うような、ダークでミステリアスな雰囲気を醸し出しています。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
マイナーコードにおける9thの使い方と似ている
このような6thの使い方は、マイナーコードの一番上に9thを乗せた時と似ています。
※左の6→5がドリアンモードでの例、右の2→1が9thコードの例
例えばDmコードの上に9thのEを足すと、9thの音はトニック(D)の音に行きたくなり、少しダークなサウンドになります。
この「欲しい解決感」「行きたい音に行く」をそのまま行えば解決感が出ますし、それ以外の音に移動したり、そのままあえて移動しなければ、それはそれで強烈なサウンドになります↓
9thの音を取り入れることによってダークさを醸し出す手法は、これまでご紹介した「傷だらけのミドナ」と「Dirtmouth」でも使われています。
※上段が「傷だらけのミドナ」の譜面、下段が「Dirtmouth」の譜面
このように9thを使って楽曲のトーンを暗くすることもできますが、ドリアンモードの6thを使うことでも同様の効果を出すことができます。
スポンサードサーチ
ドリアンモードのゲーム音楽:ファイナルファンタジーVI「カイエンのテーマ」
次にご紹介するのは、「ファイナルファンタジーVI」より「カイエンのテーマ」です。
基本のコードはCm7で、メロディーは「b7→6→5」という流れをベースに展開されています。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
ドリアンモードを使って少しだけダークさを軽減する方法
この楽曲ではドリアンモードが使われていますが、はじめにご紹介した2曲に比べると少しだけダークな雰囲気やシリアスな雰囲気が軽減されています。
これには2つの理由があります。
1つ目の理由は、6thの音の後に5thの音に解決している点です。
ずっと6thの音を使ったり6thの音でフレーズが終わると、浮遊感や不安定さが残り、それがダークな雰囲気やシリアスなサウンドに繋がります。
しかし、この曲では6thの後に5thの音に移動しているため、解決感があり、比較的スッキリと終わる印象になります。
そして2つ目の理由は、9thの音がコードに入っていない点です。
9thの音が入っていると少しシリアスなサウンドになりますが、この音が入っていないため、はじめの2曲よりもシリアスさが軽減されます。
ドリアンモードのゲーム音楽:クロノトリガー「バトルテーマ(戦い)」
次にご紹介するのは、「クロノトリガー」より「バトルテーマ(戦い)」です。
Dmキーの曲で、曲全体を通してDmコードが使われています。
メロディーはトニック(D)からスタートし、ドリアンスケールに沿って徐々に下がっていきます。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
メロディーでドリアンモードの特徴である6thの音を使うことにより、5thに移動する際に彩りを加えています。
しかし、メロディーはトニック(1)から1音ずつ徐々に下がっているため、変に音が浮いたりせずに「冒険」「興味深さ」が出ています。
シリアスすぎない点が、まさに「通常の戦闘テーマ」としてピッタリの塩梅でしょう。
スポンサードサーチ
ドリアンモードのゲーム音楽:オクトパストラベラー「剣士オルベリクのテーマ」
次にご紹介するのは、「オクトパストラベラー」より「剣士オルベリクのテーマ」です。
この曲の大きな特徴として、「メジャーIVコードの活用」と「部分的なドリアンモードの利用」が挙げられます。
特徴1:マイナーキーの曲でメジャーIVコードを活用して楽曲に明るさを加える
マイナーキーでは6thがフラットになるため、IVコードはマイナーコード(iv)になります。
例えば、DマイナーキーのIVコードはGmになります。
しかし、ここでドリアンモードを使って6thを「ナチュラル6th」にすると、IV(メジャー4thコード)になります。
※6thの音がBbからBに変更される
このように「Im→iv」ではなく「Im→IV」とメジャーコードに移動することにより、サウンドに明るさが加わります↓
特徴2:部分的にドリアンモードを使用する
「曲全体を通してドリアンモードを使わなければならない」ということはありません。
「ここだけドリアンモードで、それ以外はマイナーキー」のように、部分的にモードを使うこともできます。
実際に「剣士オルベリクのテーマ」でも、基本はマイナーキーで一部だけドリアンモードが使われています。
この曲のはじめは、上記画像の楽譜のようにDマイナーキーをベースに進められています。
マイナーキーがベースとなっているため、全体的にダークでシリアスな印象があります。
しかし、最後にはドリアンモードが使われています。
それまではiv(マイナー4thコード)を使っていましたが、これがIV(メジャー4thコード)になるため、曲に明るさや勇敢さが加わります。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
ドリアンモードのゲーム音楽:Halo 3「Never Forget」
次にご紹介するのは、「Halo 3」より「Never Forget」です。
基本のコード進行は「Dm – C – D」ですが、途中でドリアンモードに変わり、「iv」が「IV」に変わります。
それでは、楽譜を見ながらじっくり聞いてみましょう。
6thの音で明るさも暗さ加えられる
6thの音をどう使うかによって、音に明るさを加えることもできれば、逆に暗さを加えることもできます。
例えばEドリアンモードを使うとき、「Em→A」と移動するととても明るいサウンドに聞こえます。
逆にトニックのコードに6thの音を加えると、暗さや不安定さを加えることができます。
例えばEドリアンモードを使うとき、トニックのEmに6thを加えて「Em6」にすると、3rdと6thがトライトーンになるため、ダークなサウンドになります↓
ドリアンモードのゲーム音楽:ゼルダの伝説 神々のトライフォース「闇の世界」
次にご紹介するのは、「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」より「闇の世界」です。
この曲は、ドリアンモードを使って「明るさ」と「暗さ」を絶妙なバランスに仕上げている点が特徴的です。
「明るさ」と「暗さ」の絶妙なバランスを取る方法
楽曲の「明るさ」と「暗さ」の絶妙なバランスを取る方法は、主に2つあります。
一つは「ベースペダル」のテクニックを使う方法、もう一つは「b6th」と「6th」の音を混ぜて使う方法です。
※上段が「ベースペダル」の例、下段がb6thと6thを混ぜる例
この曲のはじめは、ホーンセクションでCドリアンスケールに沿ったフレーズが奏でられます。
このとき、ベースパートはトニック(C)の音だけを鳴らしており、この間にハーモニーパートで3度違いの音を同時に鳴らし、5thから1stの音まで徐々に上がっていきます。
途中で6thの音も取り入れていますが、基本のコードはCmのままなので、これから冒険に向かうような勇ましさが強く感じられます。
それでは、楽譜を見ながら前奏部分を聞いてみましょう。
このフレーズの後にはメロディーパートが入り、コードにIVが加わるため、更に明るさが加わります。
上記画像の4小節目ではAbmaj7になり、ベースもAではなくAbを演奏しています。
3小節目ではドリアンモード(b6thではなく6thを使用)でしたが、4小節目はドリアンモードではなく通常のCマイナーキーになるので、この絶妙な明暗の付け方が面白いポイントです。
それでは、これらを踏まえて楽譜を見ながら聞いてみましょう。
ボイスリーディングにも注目
この曲では、メロディーパートもハーモニーパートもトニック(C)の5thの音(G)からスタートしています。
次は6thに上がりますが、3小節目はまた5thの音に戻ります。
しかし、この5thに戻ったときのコードは「Abmaj7」ですので、5thの音(G)はコードに対して7thの音となります。
このようにドリアンモードを最小限に使っていくテクニックは、作曲者・近藤浩治氏がよく使うテクニックです。
ドリアンモードのゲーム音楽:Halo 3「Halo Theme」
次にご紹介するのは、「Halo 3」より「Halo Theme」です。
はじめの非常に壮大でミステリアスなクワイアが印象的な楽曲で、グレゴリオ聖歌を思い出させるようなドリアンのメロディーが特徴的です。
このクワイアのパートの後は、ストリングスやパーカッションが入ります。
Eドリアンモードで、ベースはEの音を通して演奏しています。
このとき、ストリングスは5th(B)→6th(C#)→b6th(C)→b7thと移動している点も特徴的です。
それでは、楽譜を見ながら聞いてみましょう。
ミクソリディアンモードとは一味違う「勇ましさ」「冒険」「戦い」を演出する
ミクソリディアンモードの解説記事では、ミクソリディアンモードは「勇ましさ」「冒険」「戦い」などを演出するのにピッタリのモードであることを解説しました。
今回ご紹介しているドリアンモードもこのような印象がありますが、ミクソリディアンモードの方が「仲間と一緒に楽しい冒険をする感じ」や「12歳の子供も楽しむようなゲーム」に馴染みやすいかもしれません。
どちらかというとドリアンモードの方がややダークで、「Halo 3」のようなシリアスさや危険な雰囲気、強い覚悟を持った人間の気持ちを演出するのにマッチしやすいでしょう。
以上で前編の解説は終了です!
後編はこちら↓
-
前の記事
【音楽理論】エオリアンモードを使ったゲーム音楽を解説! Part1【映像音楽】 2023.10.05
-
次の記事
【音楽理論】ドリアンモードを使ったゲーム音楽を解説!後編【映像音楽】 2023.10.05