よくある致命的なミックス(MIX)の間違い7つ

よくある致命的なミックス(MIX)の間違い7つ

今回は、Justin Collettiが解説する「7つの致命的なミックスの罪」をまとめました。

マスタリングエンジニアとして活躍しているJustinが、長年の経験からわかった「よくあるミックスの間違い」を7つ教えます。

The 7 Deadly Sins of Mixing ("The mastering engineer's pet peeves")

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目次

ミックスの間違い1.好きな曲をリファレンス曲にする

よくあるミックスの間違い1つ目は「好きな曲をリファレンス曲にする」です。

ミックスやマスタリングにおけるリファレンス曲(参考曲)とは、自分の理想に近い既存の楽曲のことです。

「こういうふわっとした雰囲気の曲にしたい」「これぐらいバスドラムが強く前に出るようにしたい」など、自分の曲に求めている要素が入った楽曲を探すことが大切です。

マスタリングエンジニアにマスタリングをお願いするときも、リファレンス曲を渡して「こういう雰囲気にしてください」とお願いすれば、その曲に近づくための調整をしてくれます。

そのため、リファレンス曲を選ぶときは「自分の理想に近い曲」を選ぶべきであって「自分が好きな曲」を選ぶべきではありません。

単純に好きな曲をリファレンス曲にするとどうなる?

極端な例ですが、例えばイマドキ流行りそうな明るいポップスの曲を作っているとしましょう。

このとき、実は60~70年代の少し昔の曲も好きで、リファレンス曲として60~70年代の曲を選ぶとどうなるでしょうか?

確かに60~70年代の曲には素晴らしい楽曲もありますが、レコーディング環境は当時と現代で全く違いますし、現代の方がステレオ感(左右の広がり)があり、高音域から低音域まではっきり聞こえるでしょう。

曲としては60~70年代の曲が好きでも、音の聞こえ方が今作っている曲にピッタリ合っているとは限りません。

逆に言えば、メロディーやコード進行があまり好みでなくても、音の聞こえ方が好みであればそれをリファレンス曲にするべきです。

「バスドラムがどれだけ前にいるように聞こえるか」「ボーカルの高音域がどれだけキラキラしているか」が自分の曲に合いそうなら、自分の理想に近いなら、そのような楽曲をリファレンス曲に選びましょう。

ミックスの間違い2.全体のバランスが悪い

よくあるミックスの間違い2つ目は「全体のバランスが悪い」です。

ギターソロよりもハイハットの方が音量が大きかったり、ボーカルの音量が小さすぎてずっと聞こえなかったりすることがあります。

「極端に音量が小さい・大きいなら流石に気づくだろう」と思うかもしれませんが、実はバランスに気を配っていても重要な部分のバランスが取れていないことがあります。

サビでボーカルが聞こえにくくなる理由

Aメロで完璧なバランスが取れていたとしても、サビではボーカルが埋もれて聞こえることがあります。

Aメロで使われている楽器が少なくても、サビでは楽器の数が増えることで「ボーカル以外の楽器の音量」が増えてしまうためです。

他の楽器の数と音量が増えているのにボーカルは音量がそのままなら、ボーカルは小さく聞こえてしまいます。

他にも、小さな範囲でバランスが取れていないことがあります。

「この言葉だけ聞こえにくくなる」「この1音だけやたらと音が大きい」というケースです。

バランスが悪いのはオートメーションを使っていないから

このようなバランスの問題が起こるときは、オートメーションを使って調整されていないことが多いです。

「Aメロのボーカルはこれぐらいで十分だけど、サビでは少し音量を上げよう」
「この部分の子音が弱くて歌詞が聞き取れないから、この子音の音量を上げよう」
「似た曲調のヒット曲ではバスドラムがこれぐらい大きく聞こえるから、自分の曲もそうなるように調整しよう」

このように、その時に鳴っている音全体のバランスを考慮し、細かく調整することが大切です。

ミックスのバランスを整えるためのポイント

ミックスのバランスを整えるためのポイントは「優先順位を決めること」です。

「何を1番聞かせたいか?」を考えてみましょう。

バスドラム
ベース
スネア
ボーカル
高音域のパーカッション(ハイハット、シェイカー、タンバリン等)

例えば上記の楽器はとても目立ちやすいので、バランスを間違えると他の楽器の音をかき消してしまう=マスキングが発生する可能性が高いです。

同じ音域の音が同じ場所から聞こえるとマスキングにつながりますので、Panを左右に振って位置をズラしたり、音量を小さくしたり、1番重要な周波数帯域をEQで調整するなどしましょう。

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ミックスの間違い3.音をむやみに左右に広げる

よくあるミックスの間違い3つ目は「音をむやみに左右に広げる」です。

真ん中だけでなく左右からも音が聞こえると、とても広がりのある曲に聞こえます。

このとき、Panで音を左右に振るのではなく、人工的に音を左右に広げるプラグイン(ステレオワイドナー)などを使うことがありますが、これを使いすぎるのはおすすめしません。

このようなツールを使って音を広げるのは、2~3個程度の楽器に限定しておくのがおすすめです。

また、Panを振る場合も「左にMAX」「右にMAX」と極端にPanを振る楽器も数を限定しましょう。

何でもかんでも左右に広げるのではなく、本当に大切な要素だけを広げましょう。

音に広がりを持たせるときのコツ

似ている音色のトラックを2つ用意して、それぞれPanを左と右に振ることがあるでしょう。

このとき、音は似ていても微妙にリズムが違ったり、片方だけ高音域がほんの少しだけ多く含まれていたりすると、左右で広がりが出やすくなります。

音を広げるツールを使うのではなく、このような工夫をすることでもキレイに音を広げることができます。

音を左右に広げるコツはこちらでも解説しています↓

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ミックスの間違い4.リバーブとディレイを適切に設定できていない

よくあるミックスの間違い4つ目は「リバーブとディレイを適切に設定できていない」です。

どのエフェクトにも言えることなのですが、特にリバーブとディレイに関しては使い方をよく考える必要があります。

この2つのエフェクトにおいては、特に「EQを使うこと」「テールの長さ」「プリディレイ」が大きなポイントです。

みなさんが知っているヒット曲の多くは、必ずと言っていいほどリバーブにEQが使われており、テールの長さもプリディレイも考慮されています。

なぜリバーブにEQを使うのか?

例えばボーカルにリバーブを使うとき、より明るい音にするために「高音域を多く含んだリバーブ」を使ったり、ダークな音にするために「低音域を多く含んだリバーブ」を使うことがあります。

これは、リバーブに対してEQを使うことで調整できます。

他にも、高音域だけをカットして子音が目立ってしまうことを防いだり、低音域だけをカットして音がボワボワしてしまうのを防ぐためにEQが使われます。

ときには、高音域と低音域を両方カットしたバンドパスのEQを使い、中音域だけを残したリバーブにすることもあります。

リバーブの設定で重要なのは「プリディレイ」

リバーブを使うときに見逃されやすいのが、プリディレイ(Pre Delay)です。

プリディレイとは、音が鳴ってから何ミリ秒後にリバーブを発生させるかを決めるパラメーターです。

プリディレイを少し遅くするとはじめに鳴った音とリバーブ音が被らなくなるので、よりクリアに聞こえるようになります。

そのため、リバーブを使うときはプリディレイを調整することをおすすめします。

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ミックスの間違い5.ボーカルのディエッサーが適切に設定できていない

よくあるミックスの間違い5つ目は「ボーカルのディエッサーが適切に設定できていない」です。

耳が痛くなる高音域になりやすい「s」「chi」「shi」などの発音を整えるために使うのがディエッサーです。

しかしこのディエッサーを適切に使っておらず、ボーカルの高音域が多すぎるミックスになっている人が多いです。

ボーカルのディエッサーでよくある問題とは?

ボーカルのディエッサーが難しいのは、「耳が痛くなる子音の周波数帯域」と「明るさや繊細さを表現する周波数帯域」が同じだからです。

高音域がしっかり出ていると、まるで自分の耳元で歌っているかのような細かい息遣いや発音がよく聞き取れるようになり、繊細な音にすることができます。

一方、耳が痛くなりやすい子音「s」「chi」「shi」なども同じ高音域に含まれます。

そのため「音を明るくしたい」「よりリアルで繊細に聞こえるようにしたい」と言って高音域を増やしてしまうと、耳の痛い子音も一緒に強調されてしまいます。

ミックスの段階でボーカルにディエッサーを使うときのコツ

マスタリングエンジニアは「理想の明るさ・繊細さ」をキープしながら耳の痛い子音だけを減らすよう調整しますが、ミックスの段階でこれができているのが理想です。

マスタリングでは2mixの音源を使うため、ボーカルだけを調整することは難しいからです。

ミックスでは、まずマスターバス(Stereo Out)の最後にEQプラグインを追加し、ボーカルが歌っているときのスペクトラム(鳴っている音のグラフ)を確認しましょう。

ときどき特定の高音域が跳ね上がることはありますが、念のためリファレンス曲と高音域の出方を比較して、高音域が出過ぎていないかをチェックするとよいでしょう。

「ボーカル用のリファレンス曲」には注意するべき理由

自分が好きなヒット曲が同じぐらい、ボーカルが明るく繊細に聞こえるようにしたいときもあるでしょう。

自分が作っている曲とジャンルは違くても「この曲と同じようにボーカルを聞かせたい」と思い、いわゆる「ボーカル用のリファレンス曲」を参考にすることがあります。

このとき、そのヒット曲のオケ(インスト)よりも自分の曲のオケが暗いと、やたらとボーカルが明るく聞こえてしまいます。

ボーカルが同じ明るさでも、オケの明るさが違うとボーカルの聞こえ方が変わってしまうのです。

ボーカルだけ聞くとリファレンス曲と同じにできているはずなのに、楽曲全体で聞くとなんだかうるさいと感じる場合は、ボーカルだけでなくオケの明るさや質感にも注目しましょう。

大切なのは「ボーカルをリファレンス曲と同じようにすること」ではなく、「自分の曲でボーカルとオケのバランスが整っていること」です。

ミックスの間違い6.シンバル類が明るすぎる

よくあるミックスの間違い6つ目は「シンバル類が明るすぎる」です。

これはシンバルだけでなく、シェイカーやタンバリンなど高音域の楽器にも共通して言えることです。

基本的に「バランスがいいミックス」のEQカーブは右肩下がりになっています。

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曲全体で聞いたときにこのような形になっているのが理想ですが、中にはシンバルが鳴るたびに10kHz付近だけやたらと音が出ていることがあります。

このような問題を発見したとき、マスタリングエンジニアはダイナミックEQやディエッサーを使ってシンバルが出過ぎないようにし、他の楽器の明るさがきちんと出るように調整します。

シンバル類のEQのコツ

シンバル類は、基本的にEQで高音域をブーストしなくても、すでに十分高音域が出ていることが多いです。

そのため、不要な低音域をカットするだけで十分であることがほとんどです。

前述のボーカルに使うディエッサーのときと同様、ミックスではまずマスターバス(Stereo Out)の最後にEQプラグインを追加し、シンバルが鳴ったときの状態を確認しましょう。

シンバル類の場合は8~12kHz付近にこの問題が発生することが多いので、その音域に注目し、リファレンス曲とも比較しながら本当に不必要に出過ぎていないかをチェックしましょう。

高音域のミックスをチェックするときのコツ

ボーカルやシンバルなど、高音域をチェックするときに大切なのは「さまざまな環境で再生して聞くこと」です。

特にヘッドホンでは、高音域の出方に差が激しい傾向にあります。

やたらと大きく聞こえることもあれば、全然聞こえないこともあります。

もし高音域が少し小さく聞こえるヘッドホンをミックスで使っていると「自分の曲には高音域が足りないんだ」と勘違いしてしまい、本当は十分足りているのに不必要に増やしてしまうことになります。

そのため、スピーカーやヘッドホン・イヤホンを使うときは、その製品の音の出方・特性を理解した上で使用するようにしましょう。

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ミックスの間違い7.聞こえていない低音域を増やしすぎる

よくあるミックスの間違い7つ目は「聞こえていない低音域を増やしすぎる」です。

低音域は音楽にとって重要な音域でありながら、一般のリスナーが使っているような安価なスピーカー・ヘッドホンでは十分に聞くことのできない音域です。

音響の整った部屋でプロ仕様の高価なスピーカーを使わないと、正確に聞くことは難しいでしょう。

これは、仕方のないことです。

誰もが高価でプロ仕様の製品を使って制作をしているわけでもありませんし、すべてのリスナーが同じ環境で音楽を聴いているわけでもないからです。

しかしミックスをしている人にお伝えしたいのが、聞こえない低音域をむやみに増やすことはしないでほしいということです。

低音域がしっかり聞こえないなら控えめにしておくのがいい理由

もし低音域をしっかり聞ける音楽環境がないのであれば、低音域は少しだけ増やす程度にして、あとはマスタリングエンジニアに調整をお願いするのがおすすめです。

マスタリングエンジニアの環境なら低音域もしっかり聞くことができるため、必要な分だけ増やして調整することができるからです。

しかしミックスの段階で低音域が多すぎてしまうと、マスタリングエンジニアは低音域を抑えることになります。

すると、マスタリングが終わったデータを聞いたときに「ミックスの時よりもパワーがない」とがっかりしてしまうでしょう。

サイドチェインを上手に使っていたり、低音域が出過ぎないようなコンプレッサーを使っているのであればこのような問題は起こりにくいですが、自信のない方は低音域を控えめにしておくことをおすすめします。

よくあるマスタリングエンジニアのお悩み

マスタリングエンジニアがミックスされたデータを受け取ったとき、よく頭を抱えてしまうのが「音が大きすぎる楽曲」「音が潰れすぎている楽曲」です。

ヘッドルームがしっかり設けられておらず、マスタリングで少しでも音を上げるとすぐクリッピング(音割れ)してしまう状態です。

そのため、ミックスが終わった段階で「できるだけヘッドルームを設けてほしい」「リミッターやコンプレッサーを過度に使わないでほしい」と感じるマスタリングエンジニアは多いです。

ミックスをするときに心がけてほしいこと

僕(Justin)がミックスをするときに個人的に決めているルールは「音を大きく聞かせたいという理由だけで、Busにコンプレッサーやリミッターをかけない」ということです。

Bus(グループトラック)にコンプレッサーやリミッターをかけると、なんとなく音が大きくなったように聞こえることがあります。

しかし、だからと言って強くかけてしまうと音が潰れてしまいます。

コンプレッサーやリミッターは「大きく聞かせたいから」「ラウドネスを稼ぎたいから」ではなく「よりよく聞かせたいから」という理由で使うのがよいでしょう。


以上が「よくある致命的なミックスの間違い7つ」でした。

当サイトでは他にもよくあるミックスの間違いについてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓

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