【DTM・MIX】3つのエフェクト「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いとは?
- 2024.09.15
- 2024.09.02
- 用語解説
今回は、iZotopeとSpliceが解説する「Chorus・Phaser・Flangerの違い」をまとめました。
「音がおもしろくなるから、とりあえず使っている」という方も多いこの3つのエフェクトですが、「音がちょっと似ているけど、具体的な違いがわからない」という方も多いでしょう。
そこでこの記事では、この3つのエフェクトの具体的な違いを詳しく解説していきます!
Understanding Chorus, Flangers and Phasers in Audio Production
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はじめに:今回の解説の流れ
今回は「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いだけでなく、その違いを理解するために必要な基礎知識も解説します。
2.3つのエフェクト「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違い
3.3つのエフェクト「Chorus」「Phaser」「Flanger」の聞き比べ
手っ取り早く違いを知りたいという方は、「2」もしくは「3」からご覧ください。
基礎知識:フェーズ(Phase)とは?
3つのエフェクト「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いについて理解するにあたって、まず知っておきたいのが「フェーズ(Phase)」という言葉です。
フェーズ(Phase)とは、ある時点での「音の波形の位置」のことを表します。
※日本語では「位相(いそう)」と言います
通常、音は上記画像のような波のような形をしています。
この画像はサイン波の波形ですが、波の大きさや線のなめらかさは音によって異なります。
音を波形のグラフで表すと、グラフの中心を「プラマイゼロ」とし、そこからプラス方向(上方向)とマイナス方向(下方向)を行ったり来たりしています。
波形の「1サイクル」とは?
波形はグラフの真ん中からスタートし、上方向→下方向→真ん中と、元の位置に戻ってきて「1サイクル(1周)」となります。
上記画像の下部に「1 period/cycle」という範囲で描かれた部分が、波形の「1サイクル」です。
1サイクルを角度(º)で表す
波形のグラフ上には、「0º」「90º」など角度を表す数字があります。
これは1サイクルを最大360ºで表したものです。
90º:ピーク(プラス方向の最大値)
270º:ピーク(プラス方向の最大値)
360º:1サイクル終了地点
Phaserなどのエフェクトには、この角度に関するパラメーターが付属していることがありますので、ぜひ覚えておきましょう。
※上記画像はLogic Pro付属のPhaserプラグイン。「Phase」のパラメーターがある。
「Chorus」「Phaser」「Flanger」の3つの違いを理解するには、この「波形のサイクル」や「角度」について理解する必要がありますので、これらはぜひ覚えておきましょう。
「同位相」と「逆位相」
複数の波形を重ねるときに考えなければならないのが「同位相」と「逆位相」についてです。
※英語では「In-Phase」と「Out-Of-Phase」と言います
前述の通り、音の波形はプラス方向とマイナス方向を行ったり来たりしています。
例えば2つの波形を重ねたとき、もしこの2つの波形の動き方が完全に一致すれば、波形は単純に2倍の大きさになります。
これを「同位相」と言います(上記画像左側「constructive Interference」)。
例えば同時に上方向に+2動いている波形があれば、2+2=4の波形になります。
逆に、2つの波形を重ねたとき、もしこの2つの波形の動き方が逆方向に一致すれば、波形はプラスマイナス0になってしまいます。
これを「逆位相」と言います(上記画像右側「destructive Interference」。
例えば上方向に+2動いている波形と下方向に+2動いている波形があれば、2+(-2)=0(無音)になります。
つまり、波形を真逆にひっくり返せば、波形がプラス方向・マイナス方向それぞれに打ち消しあって、無音になります。
Phase Modulation(フェーズモジュレーション)とは?
Phase Modulation(フェーズモジュレーション)とは、ベースとなる音の信号を複製し、片方の音の信号のフェーズ(位相)をズラして同時に鳴らす手法のことです。
※フェーズ(位相)の基礎知識については、前述の「はじめに:フェーズ(Phase)について」をご覧ください
例えば上記画像のうち、波形Aは波形Bよりも45ºだけフェーズをズラしています。
(90ºズラしてしまうと波形が真逆=逆位相になってしまい、プラス方向とマイナス方向の信号がそれぞれ打ち消しあって無音になるため)
音に対してこのような処理をするのがPhase Modulationです。
位相が完全一致しているわけでもなく、逆位相になっているわけでもないのが「Phase Modulation」とも言えます。
人気シンセ「Serum」にもある「コームフィルター」も位相を使っている!
Xfer Records社の大人気シンセ「Serum」では、「コームフィルター(Comb Filter)」が使えます。
コームフィルターは、この位相のズレを使ってフィルターを作っており、ダブステップやフューチャーベースなどの派手なサウンドを作るのに便利です。
Serumのフィルターの使い方やコームフィルターの詳細はコチラで詳しく解説しています↓
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3つのエフェクト「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いとは?
さて、次はここまでの知識を使いながら「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いについて解説していきます。
「Chorus」「Phaser」「Flanger」の共通点
「Chorus」「Phaser」「Flanger」の共通点は「元の音の信号を複製し、複製した信号のタイミングやピッチをズラす」という点です。
「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違い
3つのエフェクトの違いをかんたんにまとめると、以下のようになります。
Flanger:音がジェット機のようで、強めのエフェクト(ディレイタイムは1~5ms)
Phaser:異なる周波数帯域がそれぞれ、やや弱めのエフェクト(ディレイタイムなし)
それでは、これら1つ1つのエフェクトについて具体的に解説していきます。
Chorus(コーラス)とは?
Chorus(コーラス)は、元の音の信号を複製し、複製した信号のピッチとタイミングを少しだけズラして同時に鳴らすエフェクトです。
タイミングのズレは、通常約15~35ms(ミリ秒)です。
例えば合唱(コーラス)のように同じパートを歌う人が複数人いる場合、同じメロディーを歌っていても、人それぞれピッチやタイミングが微妙に異なります。
こうすると、音に厚みが出たり、音が大きく聞こえたり、広がりのあるように聞こえます。
このように複数の音を同時に鳴らしているような効果を出せるので、このエフェクトは「Chorus(コーラス)」と呼ばれています。
ギターにChorusを使った例↓
ボーカルにChorusを使った例↓
Chorusエフェクトのおすすめの使い方
Chorusは、その名の通り音がたくさん鳴っているような感じ=人数感を出したいときにおすすめです。
(ボーカルやギターでダブリングしたいときなど)
また、ビブラートのようにピッチをわかりやすく変化させるというよりも、LFOを使って波形のディレイタイムを動かし、これによって少しずつピッチを動かしているようなエフェクトのため、スピード(レート)のパラメーターによっても出せる音のニュアンスが変わります。
より速いスピード/レート:Chorusの効果を大きくダイナミックに感じる
FlangerやPhaserに比べてディレイタイムが長い傾向にあるため、「1つの音にエフェクトがかかっている」というよりも「2つ以上の音が重なっている」ように聞こえやすいエフェクトです。
そして、PhaserやFlangerでは複製する波形は基本的に1つですが、Chorusはエフェクトの設定によって複製する信号の個数を増やすことができます。
そのため、この「タイミングとピッチのズレ方」「どれだけたくさんの音が重なって聞こえるようにしたいかどうか」を考えながら使うのがおすすめです。
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Flanger(フランジャー)とは?
Flanger(フランジャー)は、前述のChorusと「元の音の信号を複製し、片方の信号のタイミングをズラす」という点が共通していますが、Chorusよりもディレイタイム(タイミングのズレ)が小さいのが特徴のエフェクトです。
タイミングのズレは、通常約1~5ms(ミリ秒)です。
よく「シュワシュワするような音がする」と表現されますが、これはディレイタイムが小さいため、2つの波形間で同位相や逆位相になる部分が発生しやすくなるためです。
Chorusはピッチもタイミングも比較的大きくズレるため、同位相も逆位相も起こりにくく、複製した信号(音)も元の信号(音)も自然な音のまま鳴りやすくなります。
ギターにFlangerを使った例↓
ボーカルにFlangerを使った例↓
Flangerはなぜシュワシュワした音が鳴る?
FlangerはChorusに比べて信号同士のズレが小さいため、コームフィルターのように特定の周波数だけ同位相になったり、逆位相になったりします。
※コームフィルターのグラフ
どの周波数帯域が同位相・逆位相になるかは、元の音の信号が含む周波数に合わせて変化します。
つまり、Flangerエフェクトのレート(スピード)が変われば「どの周波数帯域が同位相・逆位相になるか」も同時に変わるため、これによって「シュワシュワ」としているように聞こえます。
Flangerのパラメーター「Feedback」を活用しよう
多くのFlangerプラグインには「Feedback」というパラメーターがついています。
これは「Flangerをかけた音にもう一度Flangerをかける度合い」を決めるパラメーターで、数値を高くするとさらに強くエフェクトをかけることができます。
言い換えると、Feedbackは「Outputの音をInputに戻す割合」ということになります。
ちなみに上記画像のFlangerプラグインのように、Feedbackの数値をマイナス(負の値)にすることができるプラグインもあります。
この場合は、数値をマイナスにするとInputに戻された音(一度Flangerをかけた音)の信号の位相を反転させることができます。
Flanger(フランジャー)の歴史
「フランジング(Flanging)」という言葉は、1960年代から使われ始めました。
2つのテープマシンを用意し、片方のテープマシンの再生速度を指を使って遅くすることで、現在のフランジャーの効果を出していました。
テープマシンを使ってフランジングをする実際の例↓
この手法は、ビートルズやジミ・ヘンドリクスなどの著名アーティストの楽曲で非常によく使われました。
Flanger(フランジャー)のおすすめの使い方
Flangerはジェット機のような音を作りたいときや、よく言われる「シュワシュワした音」を作りたいときに使えます。
しかしそれだけでなく、少しだけ使うことで音に厚みを加えたり、モノラルの音をステレオにして音に広がりを出すことも可能です(後述)。
Flangerの「フェイクステレオ」で音に広がりを出す方法
Flangerは元の音の信号を複製して両者のタイミングをズラすエフェクトのため、これを応用してモノラル(Mono)の音をステレオ(Stereo)のように聞かせることもできます。
これは「同じ2つの音の時差が30ms(ミリ秒)以内だとモノラルに聞こえ、それ以上だとステレオに聞こえる」という「ハース効果」を用いた手法です。
やり方はカンタンで、Flangerのレート(スピード)をより大きくすることで音が左右に広がります。
※「Intensity」や「Depth」などその他のパラメーターの影響も受けますので、こちらも合わせて調整してください
Phaser(フェーザー)とは?
Phaser(フェーザー)は、ChorusとFlangerと「音の信号を複製し、元の音と同時に鳴らす」という点は共通していますが、「ディレイタイムがない(信号の位相をズラさない)」という点が異なります。
Phaserではオールパスフィルター(All-Pass Filter)と呼ばれる回路を使い、その音のさまざまな周波数帯域の位相関係を変化させています。
こうすると特定の周波数帯域で位相のズレが起こり、元の信号とオールパスフィルターを通した信号を合体させたときにあのPhaser独特のサウンドになります。
より具体的に言うと、その「特定の周波数帯域」にノッチが発生しますチ(特定のポイントだけ同位相や逆位相が発生する)。
ギターにPhaserを使った例↓
ボーカルにPhaserを使った例↓
Phase(フェーザー)のおすすめの使い方
PhaserはChorusやFlangerに比べて少し弱めのエフェクトのため、エフェクトを使いながらもアタック感を維持したいときにおすすめです。
ギターであれば、レゲエやファンクなどと相性がよいでしょう。
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「Chorus」「Phaser」「Flanger」の違いを一気に聞き比べてみよう
ここでは、さまざまな楽器で「Chorus」「Phaser」「Flanger」を使った例をご紹介します。
1つの動画の中で3つのエフェクトの聞き比べができますので、これらの音の違いがよりわかりやすくなります。
Chorus・Phaser・Flangerが使えるおすすめプラグイン
iZotope社「Nectar」は、今回ご紹介したChorus・Phaser・Flangerがすべて使えるプラグインです。
使いやすく、視認性もよく、DTMerなら誰もが知っている信頼のメーカーが開発していることもあり、プロ御用達のプラグインです。
ぜひお試しください↓
また、当サイトでは他にもDTMで使われる主要プラグインの解説をまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓
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