映画音楽のスケッチの作り方 ~オーケストレーションのコツ2つ~
- 2024.12.23
- ゲーム・映像音楽
今回は、Rick Beatoが解説する「映画音楽のスケッチの作り方」をまとめました。
映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズが作曲した、1978年に公開された映画「スーパーマン」の楽曲のスケッチをもとに、彼がスケッチをどのように書き、最終的にフルオーケストラの楽曲を作ったのかを解説します。
スポンサードサーチ
- 1. 作曲における「スケッチ」とは?
- 2. 映画音楽のスケッチの作り方~オーケストレーションのコツ2つ~
- 3. 映画音楽のスケッチを分析してみよう
- 4. フルオーケストラの楽曲を作るならスケッチは8パート程度がおすすめ
- 5. 無理して最初からフルオーケストラで作曲をする必要はない
作曲における「スケッチ」とは?
そもそも作曲における「スケッチ」とは、オーケストラなどの最終的なアレンジをする前に、曲の骨格だけを作った楽譜・音楽のことです。
映画音楽などではフルオーケストラの壮大なアレンジで作られることが多いですが、最初からすべての楽器の楽譜を作っているわけではありません。
はじめは数パートだけを使って簡単に作曲をし、それを後からアレンジしています。
ジョン・ウィリアムズの場合、「スーパーマン」では上記画像のように8パートのスケッチを作っていました。
フルオーケストラの楽譜はパート数が多く、縦に長く、非常に読みづらいので、はじめは大事なポイントだけわかるように簡潔化して作曲をします。
もちろん、人によってはピアノ1パートだけでスケッチを作ったり、木管楽器と弦楽器は「低音パートと高音パート」の2パートにまとめ、金管楽器は楽器別に細かく分けて作る…ということもあるので、スケッチのスタイルやパート数は人それぞれです。
映画音楽のスケッチを聞いてみよう
それでは、スケッチの状態の音楽を実際に聞いてみましょう。
楽曲は映画「スーパーマン(1978)」の「Krypton」です。
※著作権の関係で、Rick Beato本人が作り直した音源で再生します
スケッチの状態ですが、すでに完成されたようなサウンドに聞こえます。
もちろん使っている音源の質がいいから…という理由もありますが、実はそれだけではありません。
映画音楽のスケッチの作り方~オーケストレーションのコツ2つ~
映画音楽のスケッチを作るときのコツは、大きく分けて2つあります。
・ボイシングを工夫する(オープンコード、クインタルコードとクオータルコード)
ここからは、これらのテクニックや工夫が実際のスケッチでどのように使われているのかを解説します。
スポンサードサーチ
映画音楽のスケッチを分析してみよう
それでは、ジョン・ウィリアムズが音楽を担当した「「スーパーマン(1978)」の「Krypton」のスケッチを見ながら楽曲を分析してみましょう。
「スーパーマン」より「Krypton」の1〜4小節目の解説
まず、この曲は低音楽器の「G」の音からはじまります。
スケッチを見ると「brass」と「low strings」としか書いていないので、具体的にどの楽器を使うのかは書いてありません。
しかし楽譜の音域が非常に低いので、brass(金管楽器)はチューバやバストロンボーン、low strings(低音弦楽器)はコントラバスやチェロであると予想できます。
スケッチでは、このように楽器をグループ化して作曲することがあります。
2小節目では、Bbの音が加わります。
※ティンパニは一番下の「tymp」でロールでGを演奏スタート
GとBbが重なるので、Gマイナーコードのように聞こえるようになります。
そして、3小節目ではEとAb(G#)のハーモニーに変わります。
マイナー3rdモジュレーションが使われている
はじめは「GとBb」でGマイナーコード、その次は「EとG#」でEメジャーコードのように聞こえます。
これは「マイナー3rdモジュレーション」と呼ばれるテクニックで、マイナー3rd(短3度、半音3個分)下に移動する手法です。
このマイナー3rdモジュレーションの後は、いよいよコードトーンをすべて使ってBbマイナーコードが演奏されます。
(第一転回形なのでDが最低音になります)
ボイシングを工夫して音の厚みや印象を変化させていく
はじめの1~4小節目を見ると、はじめはGのみ演奏し、次にBbを加え、ついはマイナー3rdモジュレーションで一味変わった進行をし、最後にフルコードでどっしりと演奏する構成になっています。
単音から徐々に音を足したり、コード進行の雰囲気を変えたりすることで、この導入部分のテクスチャ(質感、雰囲気)を変えているのです。
「スーパーマン」より「Krypton」の5~6小節目の解説
5小節目は、全ての楽器がCを演奏します。
そして6小節目から、オープニングテーマであるトランペットのメロディーがスタートします。
他の楽器がCを演奏している中で、トランペットはDからスタートします。
Cメジャーコードと仮定すると、このDは9thの音に該当し、Csus2コードのように聞こえます。
しかしメロディーの最後はCで終わりますので、Cメジャーコード感が強まります。
ジョン・ウィリアムズはオープンコードを使いこなす
スケッチを見ると、ジョン・ウィリアムズはオープンコードを活用していることがわかります。
例えばCメジャーコードは下から「C,G,C」と演奏したり、Fメジャーコードのように下から「C,F,C」と演奏したり、Csus2コードを「C,G,D」のように演奏することがあります。
「C,G,C」は「C5コード」、「C,F,C」は「C4コード」とも呼びます
パッと明るく華やかで迫力のある楽曲を作るには、楽器の個数ではなく、このようなボイシングを工夫することも大切です。
実際に、このようなスケッチの段階で演奏してもすでに明るく華やかなサウンドに聞こえます。
オープンコードはロックギターなどでもよく使われるので、映画音楽以外でも使えるテクニックです
クインタルコード(五度堆積)とは?
ジョン・ウィリアムズは、クインタルコードを使うこともあります。
クインタルコード(Quintal Chord)とは、通常のコードを完全5度ずつ重ねたようにボイシングしたコードです。
※「五度堆積」「ストレッチボイシング」とも呼ばれます
例えばCsus2は「C,D,G」の3音が使われますが、これを「C,G,D」と完全5度ずつ間隔を開けて演奏します。
FQ5=Fクインタルコードなら下から「F,C,G」のように重ねます。
とても開いた感じのするコードなので、トランペットやホルンなどで演奏すると明るく華やかなサウンドになります。
ファンファーレを作曲するときにも使えるテクニックです。
クオータルコード(四度堆積)とは?
完全5度ずつ間隔を開けて音を重ねていく「五度堆積」に対して、完全4度ずつ音を重ねてコードを作る「四度堆積」もあります。
英語ではクオータルコード(Quartal Chord)と呼ばれ、ジブリ楽曲でもよく使われる手法です。
例えばFクオータルコードは、「F,Bb,Eb」の3和音になります。
「四度堆積」を使った作曲テクニックについてはこちらでまとめています↓
トランペットとトロンボーンの掛け合い
次は、トランペットとトロンボーンがメロディーの掛け合いをするセクションを見てみましょう。
この場面ではトランペット2本がメロディーを演奏しているので、同じ(もしくは似た)フレーズをトロンボーンが演奏すると、まるで3rdトランペットが登場したような印象になります。
少しだけズラしてさまざまなオープンボイシングを使う
次は、ホルンが6本登場するセクションです。
この部分の大きなポイントは、そのボイシングです。
6本のホルンが、下から順に「F,C,G」や「G,C,G」のボイシングで演奏するように指定されています。
「G,C,G」はGをベースにして4度上を重ねているのでG4ボイシング
「G,D,G」はGをベースにして5度上を重ねているのでG5ボイシング
このように、ある音を1度ズラすだけで印象を少しずつ変えています。
しかしいずれもオープンボイシングなので、全体的にパッと開いたような雰囲気になります。
木管楽器と高音弦楽器がメロディーをバトンタッチ
次は、木管楽器と高音の弦楽器が登場します。
木管楽器は3オクターブ上下で重ね、トランペットとトロンボーンのやまびこ(エコー)のように演奏します。
一方、高音域の弦楽器はハーモニーパート(コード楽器)として登場します。
はじめはオクターブ上下で「G→C」と演奏しますが、最後はフルコードで厚みのあるハーモニーを演奏しています。
このフルコードの部分でもまた、ジョン・ウィリアムズのボイシングテクニックが使われています。
上記楽譜のうち、最後の二分音符が2回続く部分を見てみましょう。
全部で6音あり、基本的には上3パート・下3パートに分かれています。
まず、はじめはFsuss2/6(F,G,D)です。
上3パートも下3パートも、どちらも同じ「F,G,D」です。
一番下のベースパートは、ルート音であるFを演奏しています。
そして、Cメジャーコードの第一転回形(E,G,C)に移動します。
このとき、上パートは「E,G,C」で、下パートは「C,G,C」を演奏しています。
そして重要なのがベースパートで、Eを演奏しています。
つまり、この部分ではCメジャーコードの3rdのEを一番上と一番下の音で演奏しています。
さまざまなボイシングの組み合わせでユニークなコードを作る
次の小節を見てみましょう。
ストリングスは「G,C,F」でGクオータルコード演奏しています。
ベースはDです。
次のコードは、ストリングスの上パートは「G,D,G」でG5ボイシング、下パートは「C,G,D」でGクインタルコード、ベースはCです。
ストリングスのパートだけ、加えて「C,G,D」の3つの音程しか使っていませんが、このようなボイシングにすると非常に神秘的な響きになります。
ここでのポイントは、ただその時に欲しいサウンドを得るためにこのようなボイシングにしているのではなく、ボイスリーディング(各パート・声部の移動)も考慮してこのようなボイシングにしているという点です。
次の小節を見てみましょう(下記画像2小節目)。
ストリングスの上パートは「A,F,A」、下パートは「F,C,F」、ベースはFです。
この部分はベース2音も含めて5パートでFを演奏しているため、とても力強いFメジャーコードに聞こえます。
次の小節は、ストリングスの上パートは「B,G,B」、下パートは「D,G,D」ベースはDです。
コードはGメジャーコードですが、ベースが5th(D)である点や、ストリングスで5thと3rd(B)を多めに演奏しているため、少し地に足が付かないような浮遊感があります。
最後はシンプルなCメジャーコードで、ストリングスの上パートは「C,E,C」、下パートは「G,C,E」、ベースはCです。
一番最後はデクレッシェンドをした後にクレッシェンドをしますので、クライマックスで爆発・開いたようなサウンドになります。
それでは、ここまでの解説を踏まえてもう一度ストリングスのコードパートを聞いてみましょう。
次は、スケッチにある全パートを聞いてみましょう。
フルオーケストラの楽曲を作るならスケッチは8パート程度がおすすめ
これまでの解説を見て「スケッチの段階ですでに完成されているようなサウンドになっている」と感じた方もいるでしょう。
これは、スケッチの段階である程度パートを分割し、それぞれのパートがどのような役割を持ち、どのような動きをするのかを明確に示しているのが理由の1つです。
もちろん、ピアノだけでもスケッチを書くことは可能です。
しかし、最終的にフルオーケストラの楽曲を作る前提なのであれば、楽器同士の掛け合いや役割がわかるよう、今回のように8パート程度のスケッチで作曲した方がいいでしょう。
まだ慣れていない方は、はじめにアイデアをピアノだけで作り、次はそのピアノ譜を使った8パートのスケッチに作り直し、最終的にフルオーケストラの譜面にしてもよいでしょう。
スポンサードサーチ
無理して最初からフルオーケストラで作曲をする必要はない
2時間の映画の音楽を作曲すると、膨大な量の曲を書かなくてはいけないので、場合によっては800ページ分のフルスコアになることもあります。
そのため、最初からフルオーケストラ用の譜面を書くのは至難の技でしょう。
そのため、今回のようにまずは8パート程度のスケッチから書き始め、楽曲で大切なフレーズや各楽器の役割などを明確にするところから始めてみましょう。
今回ご紹介したようなボイシングのテクニックなども使いながら作曲していれば、スケッチの段階ですでに完成されているようなサウンドを作ることもできます。
ぜひお試しください。
当サイトでは他にも映画・映像音楽の作り方やオーケストレーションについてのテクニックをまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓
-
前の記事
【DTM・オーディオ】サンプルレートとビット深度とは? 2024.12.22
-
次の記事
記事がありません