【映画音楽】ジョン・ウィリアムズの作曲方法3つ~スケッチの作り方~
- 2025.01.11
- ゲーム・映像音楽
今回は、David McCaulleyが解説する「ジョン・ウィリアムズの作曲方法 スケッチの書き方」をまとめました。
ジョン・ウィリアムズは映画音楽の巨匠として最も有名な作曲家の一人で、誰もが見た・聞いたことのある作品を手掛けています。
そんな彼は、一体どのようにして作曲しているのでしょうか?
この記事では、作曲においてとても重要な「スケッチ」の書き方にフォーカスして解説していきます。
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映画音楽作曲における「スケッチ」とは?
映画音楽の作曲における「スケッチ」とは、楽曲の骨格になる部分だけを書いた譜面のことです。
※譜面は紙の五線譜に書く人もいれば、パソコンの譜面ソフトに書く人もいれば、DTMでアイデアを打ち込む人もいます
「映画音楽」と聞くと、非常に壮大なオーケストラのサウンドを思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、作曲家は最初から全パート分のオーケストラの譜面を作っているわけではありません。
はじめに「スケッチ」を作っています。
上記の画像は、1ページに4小節ずつ、20パート以上分の譜面が書かれたスコアです。
すべてのパートの譜面が書かれている「フルスコア」ですが、映画音楽でははじめからこのように作曲されているわけではありません。
上記画像のように、はじめは1~8つ程度の主要な要素だけを使って楽曲の骨格を作ります。
※上記画像では8パートのスケッチですが、もちろん「ピアノだけのスケッチ」など1パートだけのスケッチもあります
つまり映画音楽では、上記2枚目の楽譜から1枚目の楽譜に作っていることが多いのです。
それではここからは、具体的に彼がどのようにしてスケッチを作っているのかを解説していきます。
最近では、ジョン・ウィリアムズは16パートのスケッチを作ることが多いようですが、今回の解説ではもう少し前の時代の彼のスケッチをベースに解説していきます。
ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法1.役割ごとに段落を分ける
ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法1つ目は「役割ごとに段落を分ける」です。
彼のスケッチを見てみると、スケッチの段階で役割ごとに段落を分けていることがわかります。
「ヨーダのテーマ」のストリングスの譜面
例えば、「スターウォーズIV ~帝国の逆襲〜」より「ヨーダのテーマ」のスケッチを見てみましょう。
このスケッチは全8パートありますが、このうち下の4段はストリングスの譜面です。
このうち、上の2段はメロディーパート用のラインです。
※上記画像では、一番上の段には何も書かれていません
そして下の2段は、ハーモニーパート用のラインです。
並び順はフルスコアと同じにする
スケッチにおける楽器の並び順は、基本的にフルスコアのときと同様の順番にするのもポイントです。
例えば上記画像では、一番上の段がフルートの譜面になっています。
フルートはフルスコアのときも一番上付近に書かれることが多いため、フルオーケストラにアレンジし直すときも場所がわかりやすくなります。
セクションはわかりやすくグループ化して書く
同じ楽器のセクションをわかりやすくグループ化することも大切です。
こちらは「ダースベーダーのテーマ」の譜面です。
譜面の左端にカッコが書かれていますが、上のカッコが書かれている2段はトランペットとトロンボーン、下のカッコが書かれている2段はストリングスの譜面です。
※余談:ダースベーダーの正しいスペルは「Darth Vader」ですが、ジョン・ウィリアムズのこの譜面には「Darth Vadar」と書かれています
このように譜面を書き分けることで、フルオーケストラにアレンジするときもわかりやすくなります。
編成は後から変更する可能性がある
「ダースベーダーのテーマ」の譜面では「金管楽器(Horns)は6本」と指定されています。
しかし、そのうちトランペットが何本か、トロンボーンが何本かなどは明記されていません。
また、コンサート版の演奏では金管楽器が4本ですが、レコーディング版では4本使われています。
このように、スケッチではおおよその本数は決めているものの、具体的な楽器とそれぞれの本数は決めないこともあります。
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ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法2.省略を活用する
ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法2つ目は「省略を活用する」です。
彼のスケッチには、省略記号や省略した書き方が多数見られます。
省略記号を使うことで、自分のアイデアを素早くスケッチに落とし込むことができます。
繰り返しの省略記号を活用する
例えば「ヨーダのテーマ」のハープの譜面を見てみましょう。
よく見てみると、繰り返しの省略記号が書かれていることがわかります。
例えば上記画像では、1小節目の1・2拍目には音符が書かれており、その後に繰り返しの省略記号が書かれています。
つまり「1・2拍目と同じフレーズを、3・4拍目でも演奏してください」という意味になります。
音程とリズムを省略して書く
また、次の小節は音程のところに黒いマルが書かれているだけで、リズムを表す棒(旗)が書かれていません。
これは、「1小節前と音程は異なるが、リズムは同じ」ということを意味しています。
この場合は、1小節前はすべて16分音符なので、2小節目もすべて16分音符で演奏することになります。
上記画像では、3~4小節目に繰り返しの省略記号だけが書かれています。
つまり「1〜2小節目をもう一度繰り返してください」という意味になります。
上記の「ダースベーダーのテーマ」の楽譜では、リズムは書かれていますが、音程が明確に書かれていません。
これは「音程はその前の音を繰り返し、リズムだけを変える」ということを意味しています。
「コードは変わらないがリズムは変えたい」というときにも使える省略です。
上記の譜面では「3」という文字と小さい点、短い横線がたくさん書かれています。
この部分は3連符が連続し、トレモロも含まれる部分です。
「3」という数字と小さい点を書くことで3連符を、横線を引くことでトレモロを意味しています。
パート名を省略して書く
ジョン・ウィリアムズは、パート名も省略して書いています。
途中から新しく楽器が加わる場合や同じ譜面を演奏しなくなる場合は、上記画像のように途中から楽器名を明記することもあります。
※上記画像の場合は上がトランペット、下がトロンボーン
また、すでにスケッチ上に書かれいるフレーズを、これまで登場していなかった楽器が一緒に演奏することになった場合は「+楽器名」と記載されることもあります。
例えば上記の譜面では、一番上に「+Glock」と書かれています。
これは「グロッケンはこれまで演奏していなかったが、ここからは一番上の木管楽器の段落をグロッケンも一緒に演奏する」ということ意味しています。
上記の譜面では「Co / Vlns」と書かれています。
これは「この部分はバイオリンも一緒に演奏する」という意味になります。
1オクターブ上下は「ova」「ovb」で書く
上記の譜面では、木管楽器の段落に「+ova」と書かれています。
「ova」は「ここに書かれている楽譜を1オクターブ上で演奏する」、「ovb」は「ここに書かれている楽譜を1オクターブ下で演奏する」という意味があります。
この譜面では「+」が書かれているので、「この譜面通りのフレーズにプラスして、1オクターブ上の音程でも演奏する」という意味になります。
五線譜を大きくはみ出して書くと楽譜が読みづらかったり、より多くの追加線を書かなければいけなくなるため、このような省略記号を使うと便利です。
「+」を付け加えるだけで「オクターブ上下でダブリングする」という内容も記載できるので、非常にわかりやすくなります。
このように名前を省略して書くと、スケッチをスムーズに書くことができます。
コードや表現記号も書く
その他にも、「コード名」「コードにおける何thの音なのか」「クレッシェンドなどの強弱記号」「スラーなどの演奏記号」なども書かれています。
音部記号は楽譜の左端外に書く
ジョン・ウィリアムズのスケッチでは、ト音記号やヘ音記号などの音部記号は楽譜の左端の外に書かれています。
通常は楽譜左端の線の内側に書かれることが多いのですが、「五線譜内のスペースをできる限り多く確保したいから」という理由が考えられます。
映像に合わせた情報を記載する
映画音楽をはじめとする映像音楽では「何分何秒何フレームからその音楽がはじまるのか」が大きなポイントになります。
そのため、スケッチの段階でそれらの情報を記載することがあります。
BPMではなく「FPM」をメモする
ジョン・ウィリアムズのスケッチを見ると、タイトルの左側に数字が書かれています。
これは映画におけるフレーム数を表しています。
※映画は1秒あたり24フレーム(24コマ、24fps)で作られているので、フレーム数は0~23になります
また、通常の音楽で使われるBPMは「Beat Per Minute(1分あたり何拍あるか)」という意味ですが、映画音楽であれば「Frames Per Minute(1分あたり何フレームあるか)」という「FPM」基準で考えることも必要になります。
このFPMの計算方法はシンプルで、1440をテンポ(BPM)の数字で割ります。
※1440fpm: 24fps x 60秒
1440÷116=12.41…
※小数点以下は8で割ると区切りがよく、「0.41…」は3/8=0.375が最も近いので、12.375と考えるとよいでしょう
タイムコードやそのシーンの情報も記載する
上記のように、映像のタイムコードを記載することもあります。
こちらの「スターウォーズ」の楽譜には「Cut To Walkers」と書かれています。
これは、物語に登場する「帝国ウォーカー」にカメラが向いた瞬間にこのフレーズが始まるということを意味しています。
ストリーマーの動きもメモする
上記画像の矢印は、おそらくレコーディングの際にストリーマーが動く瞬間を意味しているだろうと予想されます。
ストリーマー(Streamers)とは、レコーディングの際に指揮者の前に置かれる画面上で表示される印のことです。
上記画像の白い縦線がストリーマーです。
映像上を左から右に動き、キューの始まりから終わりまでをわかりやすく表示します。
ストリーマーが右端まで到達する瞬間は、カメラワークが切り替わったり、ダウンビート(小節の1拍目)になったり、曲中でちょうどそのセクションが終わるタイミングなどを意味します。
特に「スターウォーズ」シリーズの最初の2~3作品は、現代のようにクリックを聞きながらレコーディングしておらず、時計とストリーマーだけを使ってレコーディングしていました。
そのため、映像に合わせて音楽を演奏するにはこのストリーマーの情報が非常に重要です。
ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法3.自分に合ったスケッチの書き方を見つける
ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法3つ目は「自分に合ったスケッチの書き方を見つける」です。
プロでもスケッチの書き方は人それぞれ異なるので、自分に合ったスケッチの書き方を見つけることが大切です。
例えばジョン・ウィリアムズは、以前は全8パートのスケッチを書くことが多い傾向にありました(上記画像)。
しかし、最近では全16パートでスケッチを書くことが多いです。
「ランボー」「猿の惑星」「スタートレック」などでおなじみの作曲家ジェリー・ゴールドスミスは、全8パートのスケッチを用いています。
「トイ・ストーリー」シリーズや「カーズ」を手掛けた作曲家ランディー・ニューマンは、ドラムを含めて全8パートでスケッチを書いています。
「バットマン」「スパイダーマン」「アリス・イン・ワンダーランド」などでおなじみのダニー・エルフマンは、全18パートのスケッチです。
「タイタニック」「エイリアン2」「アバター」のジェームス・ホーナーは、ほぼフルオーケストラに近いパート数のスケッチです。
「ベン・ハー」のミクロス・ローザは、全3~4パートのスケッチです。
ちなみにこちらは、ベートーヴェンのスケッチです。
スケッチは「手書き」「DAW」のどちらでもOK
最近では、DAWでスケッチを書く作曲家もたくさんいます。
「紙の五線譜の方が省略記号を書きやすい」という人もいれば、「DAWの方が音程を確認しやすく、後から修正しやすく、完成形もイメージしやすい」という人もいます。
また、前述の通り「どのような編成のスケッチを書くか」も人それぞれです。
大切なのは、「自分に合ったスケッチの書き方を見つけること」だと言えます。
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ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法3つまとめ
以上が「ジョン・ウィリアムズのスケッチ作曲方法3つ」でした。
「管楽器」「弦楽器」や「ホーンセクション」「木管楽器」などパートごとに段落分けする
並び順はフルスコアにしたときと同じにするとわかりやすい
(音程が高い楽器が上)
音符、楽器名、フレーム数(FPM)などは省略して記載
アイデアや必要な情報をすぐ楽譜に書ける・一目見てわかる工夫をする
「ピアノ1パートだけ」「4パートだけ」「8パートだけ」「フルオーケストラに近い編成」など、自分に合ったスケッチの書き方(編成)を見つける
当サイトでは他にも映画音楽の作り方やオーケストレーションについてまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓
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