【ジャズアレンジ】ビッグバンドの楽曲を作る5つのコツ
- 2025.01.17
- 2025.01.19
- アレンジ
今回は、Gil Evans Inside Outが解説する「ビッグバンドのボイシング方法」をまとめました。
ビッグバンドはジャズの一種で、最も有名なのはグレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」とベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」でしょう。
このように明るく派手な管楽器のサウンドが特徴的なビッグバンドですが、実際に作曲をするにはどうしたらよいのでしょうか?
この記事では、ジャズのオーケストレーター・編曲家として有名なギル・エヴァンスのスタイルをベースに、管楽器のオーケストレーションをする方法を解説していきます。
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ビッグバンド楽曲の作り方「5つのコツ」
ビッグバンドの楽曲を作る上でポイントになるのは、こちらの5つです。
2.ルート音を重ねるのはベースパートのみ
3.トロンボーンのテッシトゥーラ
4.重要な音の置き場所
5.ボイシングとオーケストレーション
それでは、1つずつ解説をしていきます。
ビッグバンドを作るコツ1:コードの密度
ビッグバンドを作るコツ1つ目は「コードの密度」です。
ビッグバンドのアレンジでは、ピアノなどで作った簡単な譜面をビッグバンド用にアレンジしていくことが多いでしょう。
このとき、まずは「ベースライン1本」「コードトーン3本」「メロディーライン1本」の合計5つのラインを作ることが基本です。
ただし、ギル・エヴァンスの場合は不協和音を作る音を入れることがあります。
これは、メロディーラインではなくトゥッティ(全員が同時に演奏すること)のときによく見られます。
例えば「Am9 – D7」というコード進行の例を見てみましょう。
Am9は「A,C,E,G,B」の5音、D7は5thをフラットにしたり、b9や#11が入って「D,Eb,F#,Ab,C」の5音でアレンジされています。
単なるD7(D,F#,A,C)ではなく、わざと不協和音のようなサウンドにしています。
ピアノで弾いてみると、このようなサウンドになります↓(1:16~1:24)
これをビッグバンドのオーケストレーションにすると、このような楽譜になります。
実際の演奏では、このようなサウンドになっています↓(1:34~1:44)
実際に演奏で聞くと、この程よい不協和音がビッグバンドらしいサウンドを作っていることがわかります。
不協和音にする音を取り入れてコードの密度を変えることで、単なるコード進行もビッグバンドらしいコード進行になります。
その他、細かいアレンジについては後述で解説していきます。
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ビッグバンドを作るコツ2:ルート音を重ねるのはベースパートのみ
ビッグバンドを作るコツ2つ目は「ルート音を重ねるのはベースパートのみ」です。
ビッグバンドではチューバやバリトンサックスなどの低音楽器が使われますが、これらの低音楽器は基本的にコードのルート音を演奏することが多いです。
また、コードトーンパートの一番下の音がルート音を演奏することがあります。
(トロンボーンセクションのうち、一番下のバストロンボーンなど)
そのため、コードのルート音は他のコードトーンパートには含めないことが多いです。
例えば、こちらの楽譜をご覧ください。
この楽譜では、ルート音が「Eb – Eb – Ab – Ab – A」と演奏していますが、これらの音はそれよりも上のパート=コードトーンパートには含まれていません。
上記の楽譜では、ルート音がEbで、コードトーンパートは「D,F,Ab」です。
上記の楽譜では、ルート音がAbで、コードトーンパートは「E,F#,B」です。
もちろん、ベースパートがメロディーのように音程を動かすこともありますが、基本となるコードのルート音は、コードトーンパートには含まれないことが多いです。
別の例を見てみましょう。
こちらは「There’s A Boat Dat’s Leavin’ Soon For New York」の楽譜です。
ベースラインは「E – Eb – B – G」ととなっていますが、コードトーンの一番下のパート(下から2番目のTba=チューバやB.Cl=バスクラリネット)以外にはベースラインの音が含まれていません。
2:24~2:30
ビッグバンドを作るコツ3:トロンボーンのテッシトゥーラ
ビッグバンドを作るコツ3つ目は「トロンボーンのテッシトゥーラ」です。
「テッシトゥーラ」とは、音楽では「その楽器や歌手が持つ音程の範囲」を指す言葉です。
※テッシトゥーラはイタリア語で、英語では「Texture(テクスチャ)」にあたる言葉です
例えば女性歌手にとって歌いやすい音域でも、男性歌手にとっては「高すぎる」と感じることがあります。
これは男性歌手のテッシトゥーラに合っていない状態であると言えます。
楽器も同様で、その楽器が出しやすい音域があります。
しかし、ギル・エヴァンスはその楽器のテッシトゥーラを超えるようなアレンジにすることも少なくありません。
例えば、トロンボーンで非常に高い音域を演奏させることもあります。
このように容赦なくテッシトゥーラを超える高い音を出させることで、金管楽器が叫ぶようなサウンドを作ることができます。
別の楽曲でも、トロンボーンの楽譜が非常に高い音程になっています。
実際の演奏はこのようになっています↓(2:58~3:05)
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ビッグバンドを作るコツ4:重要な音の置き場所
ビッグバンドを作るコツ4つ目は「重要な音の置き場所」です。
これは、特にトロンボーンのアレンジで重要なポイントです。
コードにおける最も重要な音をどの場所で演奏するのかによって、楽曲の印象は大きく変わります。
ジャズにおいてはコードの3rdと7thの音が重要とされていますので、これらの音がしっかり含まれていれば、そのコードらしさを出すことができます。
※ジャズピアノでは、左手でルート音と5th、右手で3rdと7thを含めたコードを演奏することが多いです
例えば、こちらのトロンボーンのボイシングを見てみましょう。
一番下の段はトロンボーンパート(Tbn)で、4本あります。
赤線で囲んでいる部分のコードはG7(G,B,D,F)で、トロンボーンパートのボイシングは下から「D,F,Ab,B」となっています。
音域自体は真ん中のド(C)よりも上ですが、コードの構成音の中でも重要な3rd(B)や7th(F)の音はしっかりカバーされています。
音域が低い楽器がしっかりと重要な音をカバーしていれば、上の音域の楽器は面白いサウンドにするための音や、緊張感を高める音を入れやすくなります。
※前述の通り、ルート音は他の低音楽器でカバーしているため、これもしっかりとした土台の一部になっています
それでは、別の例も見てみましょう。
こちらの楽譜では、トロンボーンは通常の音域に収まっています。
コードトーンの中でも重要な3rdと7thの音がしっかり入っており、落ち着いて安定したサウンドになっています↓(3:41~3:56)
ビッグバンドを作るコツ5:ボイシングとオーケストレーション
ビッグバンドを作るコツ5つ目は「ボイシングとオーケストレーション」です。
ボイシングとは、音をどのような順番で並べるかを決めることです。
例えばCメジャーコードは「C,E,G」の3つの音で構成されますが、下から順に「E,G,C」とするのか「G,C,E」とするのか、はたまた同じ音を重ねて「C,E,G,C」など、音の並べ方で印象が大きく変わります。
このボイシングを考えるときに重要なのが「クローズドボイシング」と「オープンボイシング」です。
クローズドボイシングは、鳴らす音の間隔をできるだけ狭くしたボイシングです。
※一番高い音と低い音の差が1オクターブ以内
上記の楽譜の例では、トランペットセクションがクローズドボイシングでアレンジされています。
オープンボイシングは、鳴らす音の間隔をできるだけ広くしたボイシングです。
※一番高い音と低い音の差が1オクターブ以上
上記の楽譜の例では、トロンボーンセクションがオープンボイシングでアレンジされています。
※一番低いバストロンボーンが非常に低い音程なのに対し、それ以外の3本はより高い音域で演奏されているため、非常に縦に広がっているようなボイシングになっています
上記画像はホルンパートを赤線で囲んでいます。
ホルンはメロディーパートを補強するような演奏することも、オーケストラのようにコードを演奏することもあります。
上記画像はアルトサックスとバスクラリネットパートを赤線で囲んでいます。
このような木管楽器は、それぞれ他の管楽器の音程を補強することが多いです。
それでは、これらのパートの実際の演奏を聞いてみましょう↓(4:30~4:35)
それでは、別の例を見てみましょう。
上記画像では、トランペットセクションがクローズドボイシングになっています。
そして、トロンボーンセクションがオープンボイシングになっています。
ホルンは2声になっていて、片方がメロディーラインを担当しています。
バスクラリネットは、チューバの補強役になっています。
このうち、2ndバスクラリネットは別の内声を担当しています。
アルトサックスとクラリネットは、1オクターブ違いでメロディーラインを補強しています。
クラリネット(上の旋律)はトランペットの2ndと同じ音程を演奏することで、補強しています。
それでは、これらのパートの実際の演奏を聞いてみましょう↓(5:03~5:13)
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ピアノ譜をビッグバンドアレンジしてみよう
それでは、ここではピアノ譜をビッグバンドアレンジしてみます。
こちらは「When I Fall In Love」の楽譜です。
1つのピアノ譜にまとまっていますが、これをビッグバンド用にアレンジするとどのようなアレンジが考えられるでしょうか?
楽器編成を決める
まず、楽器編成を決めるためにビッグバンドでよく使う楽器を洗い出してみましょう。
・クラリネット
・バスクラリネット x2
・トランペット x4
・トロンボーン x4
・ホルン
・チューバ
・リズムセクション(ドラムやパーカッション)
上記画像のように、はじめにピアノ譜とベースラインの簡易的な譜面は作っているので、これをビッグバンド用のオーケストレーションにしていきます。
ビッグバンドのトランペットパートを作る手順
まず、メロディーラインをトランペットに担当してもらいましょう。
メロディーラインはオクターブ上下で重ねることが多いので、この譜面でもそのようにしてみます。
そしてクローズドボイシングにするため、このオクターブ上下のメロディーラインの内側にハモリパートを入れていきます。
これでトランペットセクション4本分の譜面が完成しました。
ビッグバンドのトロンボーンパートを作る手順
次はトロンボーンパートです。
トロンボーンセクションは、通常バストロンボーンが含まれます。
そのため、まずベースラインをそのままバストロンボーンに貼り付けます。
はじめに作った簡易的な楽譜のうち、ベースラインをそのままバストロンボーン用として使いました。
トロンボーンは残り3本ありますので、これらはコードトーンパートとして使います。
今回は「オープンボイシングになるように」「コードトーンで重要な3rdと7thの音をしっかり入れる」の2つを心がけて音を重ねます。
ビッグバンドのホルンパートを作る手順
次はホルンパートです。
ホルンは基本的にメロディーラインを担当するので、メロディーラインをそのまま貼り付けます。
※適切な音域にするため、オクターブ上下させてもOK
ビッグバンドのクラリネット・アルトサックスパートを作る手順
次はクラリネット・アルトサックスパートです。
クラリネット・アルトサックスは、木管楽器の中でも音域が少し高い楽器のため、メロディーラインに対するハモリパートを担当します。
ここでは、クラリネットに2ndトランペットと同じラインを、アルトサックスには3rdトランペットと同じラインを担当させます。
「Cl. Alto sax」の高い方のラインが「4 Tpt.」の上から2番目のラインと同じ音程になるように、「Cl. Alto sax」の低い方のラインが「4 Tpt.」の上から3番目のラインと同じ音程になるようにします。
ビッグバンドのバスクラリネットパートを作る手順
最後は、バスクラリネットパートです。
ここではバスクラリネット2本を想定していますので、片方はベースラインやチューバと全く同じラインを担当させます(低い方のライン)。
もう片方は内声を補強するため、トロンボーンの3rdと同じラインを担当します。
ビッグバンドの各楽器の担当箇所まとめ
ホルン、1stトランペットと4thトランペット
※4thトランペットはオクターブ下
チューバ、バスクラリネット1本
・バスクラリネット1本とトロンボーン3rd(同じライン)
・クラリネットに2ndトランペット(同じライン)
・アルトサックスと3rdトランペット(同じライン)
・1stトロンボーンと2ndトロンボーン
(トロンボーン全体でコードの3rdと7thをカバーできるように調整)
それでは最後に、簡易的なMIDI音源ではありますが、このビッグバンドアレンジの音を聞いてみましょう↓(6:58~)
ビッグバンドジャズの作曲におすすめのDTMプラグイン
最後に、ビッグバンドの作曲におすすめのDTMプラグインをご紹介します。
ブラス(管楽器)音源
Big Fish Audio社「Vintage Big Band」
ビッグバンドの管楽器に特化した音源です。
Fable Sounds社「Broadway」シリーズ
初心者向けの「Gigs」、初級〜中級者向けの「Lites」、プロ向けの「Bigband」の3種類あります。
プロ向けの「Bigband」は非常に高価なため、まずは「Gigs」か「Lites」からはじめることをおすすめします。
ドラム音源
Addictive Drums 2の拡張パック「Modern Jazz Sticks/Brushes」
Addictive Drums 2の本体をインストール後、こちらの拡張パックを追加することで利用できます。
※本体はXLN AUDIO公式アプリから無料でインストールできます
スティックで演奏したときのサウンド「Sticks」とドラムブラシで演奏したときのサウンド「Brushes」の2タイプありますので、両方持っておくと安心です。
XLN AUDIO / Addictive Drums 2 : Modern Jazz – Sticks(サウンドハウス)
XLN AUDIO / Addictive Drums 2 : Modern Jazz – Brushes(サウンドハウス)
Superior Drummer 3の拡張パック「THE JAZZ SESSIONS」
ジャズドラムのサウンドが1つに凝縮された拡張パックです。
Superior Drummer 3の本体を購入後、こちらの拡張パックを追加することで利用できます。
TOONTRACK / SDX – THE JAZZ SESSIONS(サウンドハウス)
Superior Drummer 3の本体はこちら↓
TOONTRACK社「SUPERIOR DRUMMER 3」を購入する(サウンドハウス)
以上で解説は終了です。
当サイトでは他にもオーケストレーションに関する記事をまとめていますので、ぜひこちらもご覧ください↓
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