アカペラアレンジのやり方と4つのコツ【作曲・編曲】

アカペラアレンジのやり方と4つのコツ【作曲・編曲】

今回は、Knut’s Musicが解説する「アカペラアレンジの作り方」をまとめました。

「アカペラ」はボーカルだけを使う楽曲編成のことで、日本ではテレビ番組「ハモネプ」が大人気です。

この記事では、アカペラの楽曲を作る方法、アカペラらしいアレンジの仕方を4つご紹介していきます。

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

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アカペラアレンジで重要なのは「倍音」と「レゾナンス」を考えること

アカペラアレンジを作るときに考えておきたいのが、「倍音」と「レゾナンス」についてです。

これらを無視してしまうと、実際に歌ったときに「なんだか思っていた音と違うな….」「ピアノでハーモニーを確認したときはこんな風に聞こえなかったのに…」となってしまいます。

そのため、まず「倍音とは?」「レゾナンスとは?」について解説します。

すでにご存知の方は、「倍音とレゾナンスを考慮したアカペラアレンジを作る方法(4つのコツ)」まで飛ばしてOKです。

倍音とは?

倍音は「ある音を鳴らしたときに同時に聞こえる音」のことです。

例えば、低い「ド」の音を鳴らすと、その1オクターブ上の「ド」の音が同時に鳴っているように聞こえます。

同様に、「ド」の音しか鳴らしていないのに「ミ」の音が聞こえたり、ソの音が聞こえたりすることがあります。

オーケストラは演奏する前にチューニングをしますが、ラ(A)の音しか鳴らしていないのに、なぜかどこかでミ(E)の音が聞こえてきます。

オーケストラのチューニングの例

LYSO (Lincolnshire Youth Symphony Orchestra) – Tuning

特にチューバやコントラバスなどの音程の低い楽器が鳴ったときに聞こえやすくなりますが、これが倍音です。

レゾナンスとは?

レゾナンスとは、ある音が鳴ったときに、ある特定の音(周波数)が強調されて聞こえる音のことです。

例えば、工事現場で使われるようなドリルの音も、ある特定の音だけがはっきり聞こえることがあります。

少し短いですが、動画の例では216Hzの低い音がレゾナンスになっています(2:09~2:15)。

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

音は1つしか鳴っているわけではない

例えばこちらの動画では、フルートを鳴らしたときに実際に鳴っている音をリアルタイムで分析しています。

What are harmonics?

注目してほしいのは、例えば「レ」の音だけを吹いていても、それより高い音がたくさん鳴っているということです。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

一番グラフが飛び出ているのがフルートで吹こうと思って吹いた音(レ)で、実際に私たちに聞こえている「レ」の音ですが、それ以外の音(グラフ)も飛び出ています。

これは、倍音が鳴っているからです。

最も低い音(演奏した音)は基音といい、倍音はこの音よりも上の音で発生します。

そのため、演奏した音(基音)が高くなればなるほど、発生する倍音も高く大きくなります。

これらの倍音は、「ド」や「レ」などの音程として認識することはあまりありませんが、音色(質感)などに大きく影響します。

倍音列を見てみよう

倍音は基音を第1倍音(Fundamental)とし、順番に並んでいます。

例えば人間の声でラ(A)を歌ったときは、このような倍音列になります↓(2:44~)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut
基音(歌った音、第一倍音):A(110Hz)
第二倍音:1オクターブ高いA(220Hz)
第三倍音:E(330Hz)
第四倍音:2オクターブ高いA(440Hz)
第五倍音:C#(550Hz)
第六倍音:E(660Hz)

倍音を使えば1人でハーモニーを歌うこともできる(倍音歌唱法)

ちなみに「ドミソ」などのハーモニーは、通常は2人以上で歌って作られることが多いですが、実はたった1人で歌うことができます。

これは「倍音歌唱法」と呼ばれ、もはや神業と言える歌唱法です。

倍音歌唱法の例1

ここにボーカリストはたった1人しかいませんが、6:12になると1人でハーモニーを歌っています(6:00~)。

Snarky Puppy feat. Lalah Hathaway – Something (Family Dinner – Volume One)

倍音歌唱法の例2

1人でベースを歌いながら、メロディーラインも歌っています。

Pachelbel's Canon – Overtone Singing

倍音歌唱法の例3

こちらも1人で倍音を使って2音以上を奏でています。

シンセサイザーに近いような、神聖な音が特徴的です。

POLYPHONIC OVERTONE SINGING – by Anna-Maria Hefele

倍音歌唱法の例4(ホーミー)

倍音歌唱法として有名な、モンゴルの「ホーミー」です。

Chinggis khaanii Magtaal – Batzorig Vaanchig

倍音とレゾナンスによってハーモニーのバランスが崩れることがある

先ほど、倍音は「ある音を鳴らすと、別の高い音が同時に聞こえる」というお話をしました。

つまり、ある音を1つ鳴らせば、自動的に音を1つ以上足せるということになります。

言い換えると、倍音によって自動的に音が加わるのですから、倍音と同じ音を別の人が歌う必要がないかもしれません。

逆に言えば、すでに倍音ではっきり聞こえている音を人間の声でも歌ってしまうと、その音だけ変に強調されてしまい、ハーモニーのバランスが悪くなることがあります。

レゾナンスも同様で、「何人でどういうハーモニーを歌うと、なぜかこの音だけ強調されて聞こえる」ということもあります。

そのため、どの音を歌うとどんな倍音が発生し、それがハーモニーにどう影響するかを考えることが大切です。

倍音とレゾナンスを考慮したアカペラアレンジを作る方法(4つのコツ)

少し前置きが長くなりましたが、ここからは倍音とレゾナンスをアカペラアレンジに活かす方法を4つご紹介します。

1:コードの一番下の音は大きくインターバルを作る
2:各パートの範囲を出ないようにする
3:メジャーコードの3rdの音は重ねない
4:平行五度移動を避ける

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アカペラアレンジのやり方1:コードの一番下の音は大きくインターバルを作る

アカペラアレンジのやり方1つ目は、「コードの一番下の音は大きくインターバルを作る」です。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

例えばGメジャーコード(G,B,D)のハーモニーを作る場合、一番低い音は基本的にルート音になりますので、Gになります。

このとき、一番低いGの音は、次の音と1オクターブ以上離しておくとよいでしょう。

上の画像では、ちょうど1オクターブ離したGの音を上に重ねています。

それでは、ここで低い2つの音のインターバルが遠い場合と近い場合で聞き比べてみましょう↓(4:57~5:14)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

1つ目のパターンでは、低い音は5度離し(DとA)、高い音は3度離しました(DとF#)。

2つ目のパターンでは、低い音は3度離し(DとF#)、高い音は1オクターブ離しました(Dと高いD)。

どちらもハーモニーとしては間違っていませんが、2つ目のパターンの方は、1つ目のパターンよりもどこか充実感が足りず、ハーモニーの強さも感じられません。

このように、特に低い音のインターバルがどの程度開いているのかで、音全体の充実感が変わります。

アカペラでは、こちらに注意してアレンジをするとよいでしょう。

アカペラアレンジのやり方2:各パートの範囲を出ないようにする

アカペラアレンジのやり方2つ目は、「各パートの範囲を出ないようにする」です。

例えばテノールなのにアルトの音域まで音を高くしてしまったり、ソプラノなのにアルトよりも高い音域を歌ってしまうようなアレンジは避けましょう。

これは、歌う音域が高くなるほど倍音が豊かになり、それゆえにそのパートが強く目立ってしまうことがあるからです。

例えば、各パートの音域に従って歌った場合と、テノールがアルトよりも高い音域で歌っている場合を比較してみましょう(5:45~6:04)。

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

各パートの音域の決め方

音域が高くなると、倍音が豊かになり、より「強い音」になります。

「倍音が豊かになる」と聞くととても聞こえはいいのですが、逆に言えば「強すぎる」「変に目立つ」ということにもなり得ます。

そのため「いま、このコード(ハーモニー)のときは強い印象を持たせたいのか?それとも優しい印象を持たせたいのか?」「音を大きく聞かせたいのか?小さく聞かせたいのか?」を考えることが大切です。

もしキツく大きい印象を持たせたいなら、各パートの音域の中でも高めの音を使うとよいでしょう。

逆に、静かでおとなしい印象を持たせたいなら、各パートの音域の中でも低めの音を使うとよいでしょう。

「音が高いからダメ」「倍音が多いからダメ」ということではなく、自分の理想のハーモニーバランスに沿えているかどうかが重要です。

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アカペラアレンジのやり方3:メジャーコードの3rdの音は重ねない

アカペラアレンジのやり方3つ目は、「メジャーコードの3rdの音は重ねない」です。

例えばFメジャーコードは「F,A,C」の3音で成り立っていますが、3rdの音である「A」は重ねないようにしましょう。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

上の楽譜だと、Aが2つ使われてしまっています。

3rdの音を重ねない方がいい理由は、倍音にあります。

例えばFメジャーコードの場合、ルート音のFを基準とした倍音列はこのようになります。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

低いFからスタートし、F、C、F、Aと倍音が続き、第五倍音がAです。

「F,C,A」はいずれもFメジャーコードの構成音ですので、倍音が出ても特に問題はないでしょう。

それでは、Fメジャーコードの3rdであるAの倍音列はどうなるでしょうか?

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

下から順にA、A、E、A、C#です。

先ほど見たFの倍音列と、Aの音が共通しています。

つまり、FとAの音を1つずつ鳴らした時点で「Fの倍音のA」「Aの音」「Aの倍音のA」の3種類のAが鳴っていることになります。

そのため、これに加えて別のパートでAを重ねて鳴らしてしまうと、さらにAの音が増えてしまい、やたらとAだけが強調されたハーモニーになってしまいます。

コードの3rdの主張が強くなり、ハーモニーのバランスが悪くなってしまいやすいので、注意する必要があります。

それでは実際に、Fメジャーコードの3rdの音を2パート以上で重ねて歌った場合と、そうでない例を聞き比べてみましょう↓(7:27~7:42)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

どちらも「明らかに間違っている」とは思いませんが、聞き比べると3rdの音を重ねていない2つ目のパターンの方がバランスよくキレイに聞こえます。

もちろん、これも「メジャーコードの時は絶対に3rdの音を重ねてはいけない!」ということではありません。

そのような不安定で違和感のあるようなサウンドにしたいときは、逆にこのテクニックを利用してもいいのです。

大切なのは、「使うときは意図して使うこと」と「意図せずに間違っているように聞こえることを避ける」ということです。

メジャー3rd(長3度)を避ける

先ほどは「メジャーコードの3rdを重ねるのは避けよう」というお話をしましたが、マイナー3rd(短3度)であれば問題ありません。

メジャー3rd(長3度):コードのルート音に対して半音4つ上の音
マイナー3rd(短3度):コードのルート音に対して半音3つ上の音

これは、マイナー3rdの音の倍音は、ルート音と共通する倍音はあまり含まれていないので、倍音によってハーモニーを崩す可能性が低いからです。

メジャーコードの強みを活かした「ピカルディーの三度」とは?

言語によっては、メジャーコードは「Hard」を表す「Dur」と呼ばれ、マイナーコードは「Soft」を表す「Moll」と呼ばれることがあります。

これは先ほど解説した理由の通り、メジャーコードはコードの構成音の倍音が共通していることが多く、それによってコードの構成音1つ1つが強く聞こえやすいからです。

一方、マイナーコードは構成音の倍音がメジャーコードほど共通していないので、1つ1つの音程があまり補強されず、どちらかというと弱い・柔らかい印象になりやすいです。

そのため、マイナーキー(短調)の楽曲であっても一番最後だけはメジャーコードで終わるようにすることがあります。

メジャーコードの方がより強い印象があるので、「すっきり終わった」という印象を持たせやすいからです。

このように、マイナーキーの楽曲で一番最後がメジャーコードで終わることを「ピカルディーの三度」と言います。
※ピカルディ3度、ピカルディ終止と呼ばれることがあります。

ピカルディの三度の実例(9:27~9:42)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

通常、メジャーキーの楽曲でもマイナーキーの楽曲でも、最後はトニック(主和音、I)で終わることが多いです。

メジャーキーのトニックはメジャーコード、マイナーキーのトニックはマイナーコードになることが一般的です。

しかし、そこで「マイナーキーの楽曲だが、最後だけはメジャーコードにする」という工夫をすると、少し暗い雰囲気のあった楽曲であっても、最後だけはパッと華やかに明るく終わることができます。

ちなみに「ピカルディの三度」の名前は、フランス語で「鋭い・シャープな」という意味のある「Picart」という名前が由来とされており、これを音楽のシャープ(#)にかけて「短3度にシャープをつけて=半音上げてメジャーコードにする」という意味があります。

アカペラアレンジのやり方4:平行五度移動を避ける

アカペラアレンジのやり方4つ目は、「平行五度移動を避ける」です。

平行五度移動(Parallel Moving 5th)とは、2つの音が5度の距離を保ったまま音を移動することです。

とても強い印象を与えるので、特にハーモニーにおいて一番下の2音以外のパートでこのような組み合わせになることは避けた方がよいでしょう。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

例えば上記画像の楽譜では、はじめは下の音がA(ラ)、上の音がE(ミ)でちょうど5度の距離ですが、この距離を保ったまま音程が移動しています。

実際の音で聞くとこのようになります↓(9:59〜)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

ルートと5thの音はとても強い印象を与えるので、このまま音程を平行移動してしまうと、移動するたびに「強い!」「強い!」「強い!」という印象を毎回与えてしまいやすいです。

よく言えば「目立つ」「はっきり」「わかりやすい」のですが、悪く言うと「しつこい」「悪目立ち」のような印象になります。

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平行五度移動を上手に使うコツ

ポップスであれば、明るくはっきりわかりやすい、強い印象を与えた方が楽曲のテイストに合うので、パワーコードとして平行五度移動が使われることがよくあります。

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

またルネッサンス以前に作られた楽曲では、現代とは異なるハーモニーの認識や価値観があったので、平行五度移動はよく使われていました。

そのため、平行五度移動を使うときは「平行五度移動で曲の印象が大きく変わること」「そのハーモニーに強い印象が加わること」を意識して使うことが大切です。

それでは、平行五度移動を使った場合(1つ目)と使わなかった場合(2つ目)を聞き比べてみましょう↓(10:41~11:05)

A cappella arranging: How to create rich and resonant choral chords | Choir With Knut

どちらかというと、1つ目の平行五度移動を使ったときの方が「強い」「はっきり」とした印象があり、2つ目の方が「自然」「やわらかい」「スムーズ」な印象があるでしょう。

一番低い2つの音で平行五度移動を使うのはOK

https://youtu.be/zeLuY4gFTmQ?si=u6Iq96MoQvnyw6FN

先ほど「平行五度移動はなるべく使わない方がいい」とお伝えしましたが、ハーモニーのうち一番低い2つの音で行うのはよく使われている手法です。

特にポップスではよく使われていて、このようなフレーズも一般的です↓(11:17~)

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アカペラアレンジのやり方と4つのコツ

以上が「アカペラアレンジのやり方と4つのコツ」でした。

アカペラアレンジのポイントは「倍音」と「レゾナンス」を考えること
コードの構成音1つ1つが、適切なバランスで聞こえるようにアレンジしよう
アカペラアレンジ4つのコツ
1:コードの一番下の音は大きくインターバルを作る
2:各パートの範囲を出ないようにする
3:メジャーコードの3rdの音は重ねない
4:平行五度移動を避ける

当サイトでは他にもコード(ハーモニー)に関する知識やコツをまとめていますので、アレンジのバリエーションを広げたい方はぜひこちらもご覧ください↓

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